「鉱業法」改正についての要望書
鉱業法について生物多様性の確保を念頭に置いた改正を提案します
2011年3月9日
民主党経済産業部門会議
座長 後藤斎 様
お世話になります。私どもは生物多様性条約に基づく法制度のあり方について複数のNGOメンバーにより意見交換、検討をしているグループです。
さて、今般予定されております鉱業法の抜本改正に当たり、生物の多様性の保全の観点から、下記の事項にご配慮いただきますようお願い申し上げます。
【提言の趣旨】
特に以下の点を優先事項として、鉱業法の抜本的な改正を行うこと。
○法目的の規定(第1条)に、以下の点を加えること。
「鉱物の掘採に伴う鉱害の防止及び賠償並びに生態系に対する被害の防止によって、人の生命及び身体の保護並びに生物の多様性の確保に寄与すること」
現在の目的規定にある「公共の福祉の増進」に、生物の多様性の確保と人の生命及び身体の保護を含め、明文化すること。
○鉱物の採掘が私的な利益の追求ではなく「公共の福祉の増進」に寄与するよう、適用鉱物について厳格な規定を定め、砂利の採取といった目的外の採掘が行われることを防止すること。(第3条関係)
○鉱業権の設定又は租鉱権の設定において、生物の多様性の確保をはかるべく、生態系に対する被害の防止のための実体要件を定めること。 (第35条関係)
○森林法に基づく保安林、自然環境保全法に基づく自然環境保全地域、自然公園法に基づく国立公園及び国定公園、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく生息地等保護区並びに鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に基づく鳥獣保護区特別保護地区内又はその隣接区域においては、鉱業権又は租鉱権を設定できないものとすること。 (第35条関係)
○経済産業局長は、鉱業権の設定の出願の審査において、生物の多様性を確保すべく、生態系に対する被害の防止が十分はかられるか否かについて専門家の意見を求めると共に、関係都道府県並びに関係市町村に協議すること。 (第21条、第24条)
○鉱業権の設定又は租鉱権の設定の出願において、事業の実施に際して権利者等がとるべき生態系に対する被害防止措置及び採掘後の環境復元を含む環境保全措置並びにそれらに要する費用を含む事業計画を提出させ、その実施可能性を審査の対象とすること。 (第21条、第77条関係)
○施業案は権利者等がとるべき生態系に対する被害防止措置及び採掘後の環境復元を含む環境保全措置並びにそれらに要する費用を含むものとし、経済産業局長は生物の多様性を確保すべく、生態系に対する被害の防止が十分はかられるか否かについて専門家の意見を求めると共に、関係都道府県並びに関係市町村に協議すること。(第63条関係)
○経済産業局長は、法の定める被害防止措置が十分にとられなかったため生態系に被害が発生した場合、ただちに事業の実施を停止でき、権利者等に対しとるべき原状回復措置を命じることができるものとすること。 (第109条関係)
○地方鉱業協議会は、生態系に対する被害防止措置及び被害が出た場合の原状回復措置について、事前審査及び事後評価を行なうよう定めること。その前提として、協議会を生物の多様性の保全の観点から評価をなし得る構成とすること。 (第166-167条関係)
○鉱区に関する制限(鉱区禁止地域の指定)において、鉱物を掘採することの利益と対比すべき法益に「人の生命及び身体の保護」並びに「生物の多様性の確保」を加えること。 (第35条関係)
○鉱業権又は祖鉱権の移転について、安易な移転による乱開発が行われないよう制限を加えること。 (第13条関係)
○鉱業権の取消事由に、「事業実施にあたり、森林法、自然環境保全法、自然公園法、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律又は鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に違反したとき」を加えること。 (第53条関係)
【提言の理由】
1. 鉱業法の前回改正(平成一六年六月九日)以降、平成二十年六月六日に、貴党他の提案により成立した生物多様性基本法には、次のような条項があります。これらを受け、現状では、我が国の戦後の産業復興のために地下資源を優先的に活用することを目的としたものであって自然との共生を目指す現在の社会的要請に著しく相反する内容となっている、との批判もある鉱業法を、現在の社会状況にあったものとすることが必要です。
生物多様性基本法
第三条 2 |
生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければならない。 |
第十七条 |
国は、持続可能な利用の推進が地域社会の健全な発展に不可欠であることにかんがみ、地域の自然的社会的条件に応じて、地域の生態系を損なわないよう配慮された国土の適切な利用又は管理及び自然資源の著しい減少をもたらさないよう配慮された自然資源の適切な利用又は管理が総合的かつ計画的に推進されるよう必要な措置を講ずるものとする。 |
第十九条 |
国は、生物の多様性に配慮した原材料の利用、エコツーリズム、有機農業その他の事業活動における生物の多様性に及ぼす影響を低減するための取組を促進するために必要な措置を講ずるものとする。 |
2.既に複数の地方議会から経済産業大臣等に宛てて、鉱業法について自然公園法、森林法など関係法令に配慮したものに改正するべき旨の意見書が提出されており、これらを踏まえた改正が行われるべきです。
(例 亀山市議会 平成19年 6月20日付け意見書、日進市議会 平成22年6月24日付け意見書、名古屋市会 平成22年12月8日付け意見書)
生物多様性条約市民ネットワーク 生物多様性関連法制度作業部会
部会長 草刈秀紀(WWFジャパン)
坂元雅行(NPO法人トラ・ゾウ保護基金)
大野正人(日本自然保護協会)
倉澤七生(イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク)
古南幸弘(日本野鳥の会)
原野好正(バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス)
弥永健一(生命の輪)
小林邦彦(A SEED JAPAN)
野上ふさ子(NPO法人地球生物会議ALIVE)
連絡先 (財)日本野鳥の会自然保護室 古南(こみなみ)
Tel 03-5436-2633 Fax 03-5436-2635 E-mail hogo@wbsj.org
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