「動物愛護管理法改正」に関する要望書
2011年11月21日
環境大臣 細野豪志 様
動物愛護管理のあり方検討小委員会 御中
当ネットワークは、2008年の生物多様性基本法の制定、2010年に開催された生物多様性条約COP10等において活動し、生物多様性に関連する法制度の整備・制定に取り組む市民・団体等のネットワークです。
環境省では、現在、動物の愛護及び管理に関する法律(以下、動物愛護法)改正に向けて論点の取りまとめを行っていますが、野生動物の飼育・遺棄等に関しては、生物多様性の保全にも多大な影響を及ぼすことから、当ネットワークでは今回の法改正において、以下の事項が導入されるよう、要望いたします。
1.動物取扱業の登録対象に鑑賞用魚類・両生類の取扱業を含めること
(登録による実態把握、行政の立ち入り、監視、啓発普及を可能とする)
2.販売時における対面販売・対面説明・現物確認を義務化すること
(販売時説明責任の強化により、適正飼養等を周知徹底させる)
3.動物取扱業の登録取消し(営業停止)措置の要件に、関連法(種の保存法、鳥獣保護法、外来生物法等)における違反行為を含めること
(法令間の連携と整合性を高める)
4.罰則を大幅に引き上げること
(再犯防止等、犯罪の抑止効果をあげる)
<理由と具体的提言>
1. 動物取扱業の登録対象に鑑賞用魚類・両生類の取扱業を含めること
日本には海外から多種多数の野生動物がペット用に輸入され、販売されています。動物愛護法に基づいて、動物取扱業者が哺乳類・鳥類・爬虫類を販売する場合は、あらかじめ当該動物の特性、生産地、遺棄の禁止その他関連法令に関する情報を顧客に対して説明し、同意を得て売買契約することとされています(動物愛護法施行規則第8条第4項)。
ところが、同じくペットとして売買する観賞用魚類、両生類の取扱業者は、動物取扱業者から除外されており、従って前述の販売時の事前説明責任が課せられていません。そのために、顧客に対して適正飼養の普及啓発や遺棄(放流)の禁止に関しての情報が伝えられていないとみなされます。これが各地の河川・湖沼等への観賞用魚類、両生類の安易な遺棄(放流)の一因となり、地域によっては生物多様性に大きな悪影響を及ぼすものとなっています。
今回の法改正においては、観賞用魚類、両生類を取扱う業者を動物取扱業の登録制に加える必要があります。この措置によって、動物取扱責任者講習が義務付けられ、外来生物法等関連法令についても情報が伝達されるようになり、顧客に対しても適正飼養と遺棄(放流)の禁止の周知徹底が可能となり、生態系の保全にも大きく寄与すると考えられます。
【提言1】第10条の動物取扱業の定義を以下とする。
この法律において動物取扱業とは、動物(哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、鑑賞用魚類その他政令で定める動物)の販売(その取次ぎ又は代理を含む。次項において同じ。)、保管、貸出し、訓練、展示(動物との触れ合いの機会の提供を含む。)、譲渡、その他政令で定める取扱いを業として行うことをいう。
2.販売時における対面販売・対面説明・現物確認を義務化すること
野生または野生由来の外来動物の安易なペット化は、原産国における生息地の破壊や、国内での外来種問題を引き起こすおそれがあり、生態系保全の観点から禁止することが望まれます。少なくとも現時点では、顧客に対する販売時の説明や現物確認を伴わないインターネット通販のような違法状態を防止するため、販売時における対面販売・対面説明・現物確認が義務化されるよう要望します。ちなみに、本年7月〜8月にかけて行われたパブリックコメントでは、対面販売・対面説明・現物確認の義務化に賛成が59,786件、反対は136件で、多くの国民の支持が得られているとみなされます。
【提言2】動物愛護法施行規則第8条に以下を追加する。
販売業者にあっては、顧客に対して販売動物の現物を確認させ、対面で当該動物に関する事前説明を行い、それらの了解について顧客の署名を以て販売の確認を得るものとする。
3.動物取扱業の登録取消し(営業停止)措置の要件に、関連法(種の保存法、鳥獣保護法、外来生物法等)における違反行為を含めること
動物の所持・飼育・取引等を規制する法律には、動物愛護法のほかに種の保存法、特定外来生物法、鳥獣保護法、狂犬病予防法、感染症予防法などがありますが、営業停止の根拠とされる法律違反は動物愛護法に対するもののみとされています。
たとえば、希少動物を密輸販売するペットショップや無登録の希少動物を売買する業者等が摘発され、種の保存法上の罰則が適用されて処罰された場合でも、営業停止を命じることができません。また、鳥獣保護法で捕獲が禁止されているメジロ、ホオジロなどの野鳥を密猟者から仕入れて販売する店が摘発され、有罪となった場合でも、営業停止させることができず、再犯が繰り返されている実情があります。
しかし、そもそも種の保存法および鳥獣保護法は、動物の個体に対する適切な配慮を趣旨として含んでおり(種の保存法第7条:個体等の所有者当の義務、鳥獣保護法第19条〜27条:鳥獣の飼養、販売等の規制)、特定外来生物法、狂犬病予防法および感染症予防法は、動物の適正管理によって生態系や生命財産、健康等の保護を目的としているという点で、それぞれ動物愛護法の目的・趣旨と共通する点を有しています。従って、これら法律(以下「動物関連法」という)の遵守は、動物愛護法の適正な実施に不可欠といえます。
このような観点から、動物取扱業者が動物の取引に関する関連法に違反した場合に、登録の取消(営業停止)措置を定めるべきです。
なお、種の保存法と特定外来生物法は環境省の直轄の業務であり、動物取扱業者の実態把握や見回り、立ち入りといった日常的監視は困難です。そのため、上記措置を導入するに当たっては、各動物関連法の主務官庁から、動愛法主務官庁(都道府県知事)への通報制度の整備が必要となります。
【提言3】登録取消し等の要件に以下の項目を追加する
動物愛護法第19条(登録の取消し)
都道府県知事は、動物取扱業者(法人の場合は、役員及び動物取扱責任者)が動物関連法(法令明記)に違反した場合、その登録を取消し、又は2年(現行は6カ月)以内の期限を定めてその業務の全部または一部の停止を命じることができる。
動物愛護法第12条(登録の拒否)
都道府県知事は、動物関連法(法令明記)に違反した動物取扱業者(法人の場合は、役員及び動物取扱責任者)が、新たに業の登録を求める場合はその登録を拒否しなければばらない。
新規:(通報の義務)
各法令の主務官庁は動物愛護法主務官庁(都道府県知事等)に通報しなければならない。通知を受けた動物愛護法主務官庁は、これをもって第19条の登録の取消しの理由とすることができる。
4.罰則を大幅に引き上げること
2004年に制定された特定外来生物法では、生態系に対する侵害は環境犯罪の一種であるとみなし、罰則は個人に対しては懲役3年、罰金300万円、法人に対しては罰金1億円とされました。動物愛護法においても同様に罰則を引上げるとともに、無登録営業や虚偽登録等を行う動物取扱業者及び法人に対する罰金を大幅に強化するべきです。
【提言4】第46条〜第50条 動物取扱業の違法行為の罰則引上げ
第46条(無登録営業、不正登録、業務停止命令違反、勧告命令違反)
個人は罰金300万円、法人は1億円(現行は罰金30万円、法人規定なし)
第47条(変更の無届、虚偽の変更届出、無報告又は虚偽の報告、立入検査の拒否又は妨害・忌避)
個人は罰金100万円、法人は1000万円(現行は罰金20万円、法人規定なし)
第49条(廃業の無届、虚偽の届出)
個人は罰金50万円、法人は500万円(現行は過料20万円、法人規定なし)
第50条(標識の掲示義務違反)
個人は罰金30万円、法人は100万円(現行は過料10万円、法人規定なし)
以 上
生物多様性保全・法制度ネットワーク
大野正人(日本自然保護協会 保護プロジェクト部部長)
草刈秀紀(IUCN日本委員会副会長)
倉澤七生(イルカ・クジラ・アクションネットワーク代表)
小林邦彦(国際青年環境NGO A SEED JAPAN 理事)
古南幸弘(公益財団法人日本野鳥の会 自然保護室長代理)
坂元雅行(NPO法人トラ・ゾウ保護基金事務局長)
野上ふさ子(NPO法人地球生物会議代表)
原野好正(バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス)
弥永健一(生命の輪代表)
吉田正人(IUCN日本委員会会長)
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