第156回国会 環境委員会 第7号
平成十五年四月十七日(木曜日)
   午前九時開会
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   委員の異動
 四月十六日
    選任          田  英夫君
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  出席者は左のとおり。
    委員長         海野  徹君
    理 事
                大島 慶久君
                清水嘉与子君
                段本 幸男君
                小川 勝也君
                高橋紀世子君
    委 員
                小泉 顕雄君
                真鍋 賢二君
                山下 英利君
                小林  元君
                福山 哲郎君
                藁科 滿治君
                加藤 修一君
                弘友 和夫君
                福本 潤一君
                岩佐 恵美君
                田  英夫君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        大場 敏彦君
   参考人
       東京大学名誉教
       授        岩槻 邦男君
       市民バイオテク
       ノロジー情報室
       代表       天笠 啓祐君
       株式会社三菱化
       学安全科学研究
       所リスク評価研
       究センター部長
       研究員      加藤 順子君
       東京大学大学院
       農学生命科学研
       究科教授     鷲谷いづみ君
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  本日の会議に付した案件
○遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物
 の多様性の確保に関する法律案(内閣提出)

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○委員長(海野徹君) ただいまから環境委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 本委員会の委員は一名欠員となっておりましたが、昨日、田英夫君が委員に選任されました。
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○委員長(海野徹君) 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案を議題とし、参考人から意見を聴取いたします。
 本日は、本案の審査のため、参考人として東京大学名誉教授岩槻邦男君、市民バイオテクノロジー情報室代表天笠啓祐君、株式会社三菱化学安全科学研究所リスク評価研究センター部長研究員加藤順子さん及び東京大学大学院農学生命科学研究科教授鷲谷いづみさんの四名に御出席をいただいております。
 この際、参考人の皆様に一言ごあいさつ申し上げます。
 皆様には、大変御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。参考人の皆様には忌憚のない御意見をお述べいただき、本案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、どうぞよろしくお願いします。
 本日の会議の進め方でございますが、まず、岩槻参考人、天笠参考人、加藤参考人、鷲谷参考人の順序で、お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、御発言は、意見、質疑及び答弁とも着席のままで結構でございます。
 それでは、まず岩槻参考人にお願いいたします。岩槻参考人。
○参考人(岩槻邦男君) 御紹介いただきました岩槻です。
 今日の話題がカルタヘナ議定書に基づく法案ということなので、カルタヘナ議定書は、御案内のように、生物多様性条約のバイオセーフティーを保障するために作られたものですけれども、生物多様性ということについて最初に、私自身の自己紹介を含めるという意味もあって、述べさせていただきたいと思うんですけれども。と申しますのは、皆さん、生物多様性というとよくよく知っているはずとおっしゃりたいと多分思うんですけれども、実は、生物学の研究者の間でも生物多様性というのは必ずしも正しく認識されているものではないと私自身は思っているんですけれども。
 私自身は、もうおよそ半世紀近くになりますけれども、生物多様性の研究を一貫してやってきている者なんですが、四半世紀前ぐらいに生物多様性に関する例えば大型プロジェクトを提案したりしますと、その当時の権威者の先生方からは、科学というのは物事の原理原則を究めるものであって、多様性というのは研究の対象にならないんじゃないかと、そういうことを言われた。そんな昔のことではなくて、ごく四半世紀ぐらい前のことなんですけれども。それが最近では、生物多様性の研究というのは、例えば科研費の、昨年度で終わりましたけれども、時限付きの分科細目にも取り上げられるように、研究対象として認められるようになったんですけれども、だからといって、生物多様性というものが十分生物学の世界ででも正しく理解されているとは残念ながら思えないんです。
 と申しますのは、先ほどちょっと申しましたように、多様性というのは生きているとはどういうことかということの普遍性と対称の軸であるとしばしば考えられるんですけれども、実はそうではなくて、生物の多様性というのは正に生物が生きている生きざまそのものを示しているということなので、そのことからどうしても触れる必要があると思うんですけれども。
 と申しますのは、皆さん方、生き物というのは細胞という構造を持っているということは御存じだと思いますし、我々、人が生きているというのは細胞の固まりとして生きているということも十分御理解だとは思うんですけれども、そこのところをもう一度考えていただきたいんですが、私どもの体というのは六十兆の細胞で作られていると言いますけれども、実はその細胞というのは、生まれる前、私たちという個体が始まった一番最初を考えますと、一つの細胞から出発しているわけですね。一つの細胞から出発して六十兆の細胞が私たちという、私という個体を作っているということですね。
 と同じことが生物多様性についても言えるんですけれども、生物多様性、私は主として種多様性というレベルでの研究をしているんですけれども、そういうレベルで申しますと、現在、科学が認知しています生物というのは大体百五十万種ぐらいなんですけれども、実際地球上に生息しているのは、これは科学が認知できていないんですから実際は正確には分かりませんけれども、推定する人によって多少差はありますけれども、少なくとも一千万種は生きているだろうと。私自身もサポートしていますもう少し大きい数字を推定する人は、億を超えるという言い方をするのが普通なんですけれども、それぐらいのたくさんの種が生育しているんですけれども。
 これも御案内のように、私どもの持っています命というのは、私たちが生まれたときに作り上げたものではなくて親から授かったものですし、その親はまた曾祖父から授かったものですし、本を尋ねますと三十数億年前まで私たちの持っている命はさかのぼるわけですけれども、そういう言い方からしますと、三十数億年前に地球上に生命が発生したときには、今では生物学の常識でして、一つの型から出発しているんですけれども、一つの型から出発して、ひょっとしたら億を超えるかもしれないぐらいの数に多様化しているというのが生物多様性というものなんですね。
 その多様化した生物がそうしたら個々に生きているのかといいますと、私たち自身がそうですけれども、私たちの体の中に、私たちは万物の霊長と自分どもを言っていますけれども、その万物の霊長は体の中に最も原始的だと言われる大腸菌が住んでくれないと生きていけない。今朝からいろんなもう食べ物を食べてこられたと思いますけれども、食べ物はほとんどが動植物ですし、それから朝からちゃんと呼吸をしていますのも、植物が炭酸同化作用の結果、酸素を放出してくれているおかげで呼吸ができているというふうに、ほかの生物が生きていないと万物の霊長も生きることができないという関係性は、たどっていきますと、直接的、間接的には地球上に生きているひょっとすると億を超えるかもしれない生物はすべてそういう関係性を持っているんですね。
 それを先ほど申し上げた個体と細胞との関係に振り替えて考えてみますと、ひょっとすると、ほっぺの皮膚の細胞とふくらはぎの筋肉の細胞というのは一生何か一緒にやるということはないかもしれませんけれども、私どもはそれを含めて自分たちの個体という認識をしているということですね。
 と同じように、元々は一つの型から出発して今は億を超えるという種に分化をしている、しかもそれが相互に直接的、間接的な関係を持っているという生物多様性というのは、正に、私どもはそれを生命系と呼んでいますけれども、一つのシステムを作った生を生きているという、そういう生物多様性をどう保全するかというのがこのカルタヘナ条約でも問題になる、正に生物多様性条約の基本だということを御理解いただいた上で、さらにその進化の過程で生物が何をやってきたかといいますと、例えば私どもは真核生物ですけれども、真核生物というのはすべて細胞の中にミトコンドリアを持っています。ミトコンドリアというのは、実はほかの細胞がある細胞の中に潜り込んできて、要するに細胞内共生を行って、要するに細胞融合をやってきたということなんですけれども、自然にそういう現象が起こって作られてきたものですし、先ほど申しました光合成をやります植物というのは、すべて葉緑体を持っているわけですけれども、葉緑体も細胞融合を行って細胞内共生を行ってそういう生活ができるようになってきたということ。
 ですから、自然の進化の中には、遺伝子がそういうふうに交流し合うということは既にいろんな現象で現れてきたということが一つの前提としてあるわけでありますね。
 さらに、それはもっと新しい時代、人が関与してくるころになりますと、私どもが現在利用しています様々な作物というのは、例えば交雑のような人工的な手法を用いて遺伝子の交流ということをやってきている。ただ、カルタヘナ条約のような、議定書のようなものが必要になるといいますのは、そういう人為的な行為が、技術が進むことによって様々なリスクを伴うことが生じてくるという、それに対してどう担保をすることが必要かということで、議定書のようなものが必要ですし、様々な法案を作っていただくということも必要になってくるということなんですけれども。
 そこのところの関係を現在私どもがどれだけのことを知っているか、科学がどれだけのことを知っているか、生物多様性についてどれだけの研究が進んでいるかということの関係の上で、リスクをどうチェックしていくかというような体制を作っていくということが非常に基本的な問題になるということだというふうに理解しています。
 ただ、現在、こういうふうな法を作っていただくということは、基本的には、現在我々が持っています科学的な知見というのを最大限活用して有用なものを作り出す、それに伴うリスクをどうチェックしていくかということになるかと思うんですけれども。
 ただ、ここで知っていただかないといけないことは、生物多様性について我々が今知っていますことが、例えば先ほど言いましたように、認知している種数は百五十万ぐらいだけれども実際は億を超えるかもしれないぐらいの種が地球上に生存しているということになりますと、科学がまだそれぐらいしか知っていない、そういうような生物多様性にどうその保全のためにどうリスクを保障していくかということが問題になってくるかと思うんですけれども、法を作ってそういう体制を整えるということが一方では非常に必要なんですけれども、そのリスクをチェックをする科学的な知見を担保するということにつきましては、やっぱり基礎的な研究がもっともっと進まないといけないという部分があるわけで、現在の知見からいいますと、現在の知見でどこまでチェックをするかという体制を整えていくということが、今回の議題はそういうことだと思うんですけれども、そこで生じます議論の中に、それじゃ、これ、今で十分担保できないリスクのチェックは一体どうしたらいいかという、そういうことも前向きに是非お考えいただくことが生物多様性条約というのを正しく理解して発展させていくということではないかというふうに思っています。
 先ほど簡単に申しました遺伝子組換え的な現象というようなものは、細胞融合的な現象というのは既に自然界の中でも生じており、それから農作物を作り出していくというようなときには人工的にもそういうものを作ってきたという、そういう実績があるんだということを申し上げましたけれども、問題は、今、技術がどんどん進んでくることによって、私どもが今持っています生物多様性に対する知見に十分合う以上に技術が進んできているという、そういうところでカルタヘナ議定書で言われるようなリスクのチェックというのが必要になってくるということなんで、そこのところの相互の関係を法律でどこまでチェックできるか、あるいは科学的にどこまでチェックできるかできないか、あるいはできなかったらそれをどう担保していくかということがこういう案を議していただく上で非常に重要なことじゃないかというふうに思いますので、生物多様性の研究者の立場からそういうことを是非申し上げたいと思います。
 最初に申し上げることはそういうことで、あとは質問で対応させていただきたいと思います。
○委員長(海野徹君) それでは、次に天笠参考人にお願いいたします。天笠参考人。
○参考人(天笠啓祐君) どうもおはようございます。レジュメのようなものを用意いたしましたので、見ていただければと思います。
 今度のカルタヘナ議定書及びそれに伴う国内法なんでありますけれども、一番基本は遺伝子組換え技術に伴う環境問題をどうやって防いでいくかというのが大きなポイントになると思うんですけれども、その場合に、既に私たち日本でも遺伝子汚染事件というのはたくさん起きております。言ってみますと遺伝子組換え技術に伴います環境汚染といいますか、食品汚染ですとか環境汚染事件というのが起きているわけですね。そういう既に起きている事件というのをひとつ参考にしていただければと思うんですけれども。
 スターリンク事件というのが二〇〇〇年に起きております。これは現在まで続いておりますけれども、資料一ということでどういう経緯かというのを少しまとめておりますけれども、二〇〇〇年五月に家畜用飼料からスターリンクが検出されました。スターリンクというのはアベンティス社という、当時はアベンティス社、現在はバイエル・クロップ・サイエンスという名前になっておりますけれども、この企業が開発しました遺伝子組換えトウモロコシでありますけれども、アレルギーを起こす可能性が極めて高いということで、世界的に承認されてきませんでした。唯一例外がアメリカで家畜の飼料として認められたということなんでありますけれども、その結果、アメリカで作付けされました。それが世界じゅうを流通してしまったという事件であります。もちろん、日本では飼料としても食品としても未承認であります。これが日本に入ってきた事件でありますけれども。
 これが二〇〇〇年五月に家畜の飼料から検出されました。それから、二〇〇〇年九月にアメリカで食品から検出され、さらに二〇〇〇年十月には日本の食品から検出されたという事件であります。それから、二〇〇一年の二月にやはりまた食品から検出されましたけれども、この四つの検出は、検査は、すべて市民団体が検出したものであります。スターリンク事件そのものがやはり市民団体が検出することによって起きたというところに一つの特徴があります。
 それから、二〇〇一年三月に米国で種子汚染が判明いたしました。それから、二〇〇一年十月には日本でもスターリンクに汚染された種子が日本に入ってきているということが判明しました。これもやはり日本の市民団体が検出したもの、検査したものであります。
 このように、いったん作付けされた遺伝子組換え作物というのが、花粉の飛散によりまして相次いで汚染が起きるというその一つの典型的な事例がこのスターリンク事件だったと思うんですけれども、このスターリンク事件、二〇〇〇年には作付けがストップされたにもかかわらず、昨年十二月に発表されました、日本に輸入されてきているトウモロコシの中でスターリンクの検出率というのは陽性率が九・五%ありました。いまだに汚染が続いているということが分かっております。これがスターリンク事件の特徴であります。すなわち、いったん野外に作付けされました遺伝子組換え作物というのは、花粉の飛散を通しまして汚染がずっと続くというその典型的な事例であります。
 そのほかに、また元に戻っていただきますと、未承認ジャガイモ混入事件というのが起きました。これは二〇〇一年五月から七月にかけて起きた事件でありますけれども、ハウス食品のオー・ザックに始まりまして、カルビー、ブルボン、森永製菓、PアンドGといういろいろなジャガイモ製品に遺伝子組換えジャガイモ、それも未承認、日本では未承認の遺伝子組換えジャガイモが検出された事件であります。
 この事件で特徴的なのは、食品メーカーはアメリカから遺伝子組換えでないという証明書が付いたものを購入していたわけです、原材料としまして。にもかかわらず、遺伝子組換えでないという証明書付きであったにもかかわらず遺伝子組換えである、しかもなおかつ日本では認められていない未承認のジャガイモが混入していたという事件であります。
 それから、そのほかに、ヨーロッパで菜種の種子汚染というのが二〇〇〇年に起きました。これは、ヨーロッパでは遺伝子組換え菜種の作付けが認められておりません。にもかかわらず、種子をカナダから購入したところ、遺伝子組換えの菜種種子が、菜種の種子がたくさん入っていたという事件でありますけれども、その結果、作付けされた菜種を焼却処分にするなど、大変な騒ぎになったわけであります。こういう事件が起きました。
 そのほかに、オーストラリアでは、菜種ごみ捨て事件というのが起きました。これは実験用に作られておりました菜種がごみ箱に捨てられていたという事件でありまして、これによって花粉の汚染が広がることによってどういう事態が生じるか分からないという、そういう典型的な例であります。
 そのほかに、一昨年、ネーチャー誌で、十一月二十八日に、メキシコ原生種の組換え遺伝子の汚染事件というのが起きております。これはネーチャー誌でそういうメキシコの原生種の汚染事件というのが発表されました。それをめぐりましていろいろ、賛否両論いろんな意見が闘わされたわけですけれども、しかしながら、メキシコ政府が調査したところ、やはりかなり汚染が進んでいるということが今発表されております。
 このように、いったん作付けされますと花粉を通して環境に広がってしまう、これが食品や家畜の飼料や種を汚染してそれが今日本に入ってきているという現実が既にあるということであります。
 環境汚染の実態なんですけれども、アメリカでの遺伝子組換え作物の割合というのが先日発表されましたけれども、大豆は全大豆畑の中の遺伝子組換えの割合が八〇%、トウモロコシが三八%、綿が七〇%という形になっておりまして、もう既に大量の食品や家畜の飼料として遺伝子組換え作物が日本に入ってきております。それから、種がやはり汚染されて入ってきているという現実があります。
 これは、事実上、今、アメリカ、カナダでは有機農産物への影響が深刻化してきております。これはどうしてかといいますと、御存じのように有機認証制度の中で遺伝子組換え作物は有機として認証されません。そういうことがあるものですから、今、有機農作物を作っている農家が非常に深刻な事態に直面しております。もし日本で遺伝子組換え作物が作付けされますと、同様の事態がやっぱり起きるということが懸念されております。
 それから、環境汚染の一つの例といたしまして、今、除草剤耐性作物というのが作られておりますけれども、作付けされておりますけれども、除草剤に強い雑草が広がり始めた。これがスーパー雑草という名前が付けられておりますけれども、そうしますと、当初は予想されなかったやはり除草剤耐性作物の場合、当初は農薬の使用量が減るというのが一つの目的だったわけでありますけれども、除草剤が効かない雑草が増えることによって農薬使用量が増えるという事態が生じております。
 それから、昆虫への影響がやはりいろいろな形で出てきております。これは、細胞中に殺虫毒素を作る作物が広がって作付けが増えておりますけれども、その殺虫毒素を作る作物が、例えば根から殺虫毒素が分泌されるケース、それからチョウの幼虫に対する影響、これは花粉の中にも殺虫毒素が入ってまいりますから、この花粉の飛散による影響ということになります。それから、ミツバチやテントウムシの短寿命化も報告されております。それから、害虫の耐性化という問題も起きてきております。こういう様々な環境汚染が今あるということであります。
 これに対して、法案の、今度のカルタヘナ議定書に対する国内法でありますけれども、一つは、法案に至るまでの経緯での問題点といたしまして、一九九〇年に中央公害対策審議会の中にバイオテクノロジー専門委員会というのが作られた経緯があります。このときに、ほとんど審議がされないまま実は法律として、成立、法案にもならなかったという経緯があります。ですから、今度の場合は条約の議定書の法律ということなんですけれども、外圧によらなければ法規制ができないというところは、やっぱり私たちは非常に不思議に思っております。
 それから、評価できる点としまして、日本で最初の遺伝子組換え生物規制法であるということ、それから日本で初めての生物多様性の保護法ということが銘打たれていること、これは非常に評価できますけれども、やっぱり問題点といたしまして、今までの法律と非常に似ておりますけれども、知的所有権を盾にして情報が公開されないケースが非常に多いわけであります。これを私たちから見ますと、やはり非常に限界を持った情報公開になっているというところが一つ問題です。
 それから、審議会などでの学識経験者の選考で、市民の意見というのが反映されたことがないということなんです。それから、その学識経験者の選考の過程の透明性の確保というのが非常に重要だと思います。それから、市民の意見を反映できる仕組みが必要だと思います。これは、今まで、例えば中間報告のようなものが出まして、パブリックコメントを求めるというケースが多いんですけれども、これですと審議の過程が不透明になる、それから結果だけが分かる。そして、パブリックコメントを求めるのはいいんですけれども、ほとんどが無視されるという経緯を通っているものですから、一般の市民団体からはこういうやり方ではやはり問題が多いということがずっと言われてきている内容であります。
 それから、今後の、法律ができた後なんですけれども、いろいろな監視なり取締りですとか、いろいろなことが必要になってくると思うんですけれども、その場合に一つ重要な点としまして、予防原則という考え方でこの監視活動を行ってほしいというところであります。
 法案の中にも「科学的知見の充実」という表現がありますけれども、科学的知見の充実を待っていては間に合わないケースがあります。ですから、それは予防原則に立って行っていただきたいということであります。これは地球サミットで、九二年の地球サミットのリオ宣言の中で、第十五原則の中に予防原則というのが入れられております。これに基づくカルタヘナ議定書でありますから、当然この予防原則という立場というのは重要だと思います。これは科学的知見の充実が分かる前に、疑わしきはやはり環境を守るという姿勢が非常に重要だということであります。
 それから、表示が非常に重要になってまいります。これは違反行為を見付け出すためにも非常に重要になってまいります。例えば、現在の日本の表示制度では、遺伝子組換え食品に対してごく一部の食品に対する表示しかありません。全食品の表示、それから家畜の飼料の表示、種子の表示が非常に重要になってまいります。これは資料二にも一応一覧表として出しましたけれども、ヨーロッパで、今年あるいは来年早々になるかもしれませんけれども、新しい遺伝子組換え作物等の表示制度がスタートいたします。その内容と比べますと、日本の表示制度がいかに貧しいかということがお分かりいただけると思います。
 こういう内容で、例えば、やはり今でも日本の表示の中で全食品表示というのは行われておりません。非常にわずかな食品であります。それから、例えば種の表示がありません。それから家畜の飼料の表示がありません。それから、トレーサビリティーが確立されておりません。これでは何もできないに等しいことになります。
 ですから、違反行為を見付け出す、あるいは汚染の原因を見付け出すためには、表示制度の充実とそれからトレーサビリティーの確立というのが非常に重要になってくるということであります。これが確立されないと、やはりこの法律案自体が実効性を持ったものにはならないんじゃないかなというふうに思っております。
 以上です。
○委員長(海野徹君) ありがとうございました。
 次に、加藤参考人にお願いいたします。加藤参考人。
○参考人(加藤順子君) おはようございます。株式会社三菱化学安全科学研究所の加藤でございます。
 まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。
 私は、大学、大学院と生物学の研究に携わっておりました。ですけれども、大学院を終わってからは、現在所属しております会社に入りまして、化学物質ですとかバイオテクノロジーの安全性に関して、主に官公庁の依頼を受けて調査を行っております。今回の法案のキーワードの一つでございます遺伝子組換え技術というのは一九七三年に確立したものなんですが、私が大学院の博士課程を修了しました一九七五年の時点では、まだ一般的な技術には、一般に普及しておりませんで、私自身はその研究生活の中で実際に遺伝子組換え実験というのを行ったことはありません。
 ただ、遺伝子組換え生物の安全性に関しては、野外試験が始まりましたのが一九八五年のことなんですが、そのすぐ後の八六年から継続的に調査をしてきておりますので、そのために今回この席にお呼びいただいたのかなというふうに考えておりまして、意見陳述の機会を与えていただいたことを感謝いたしております。
 本日は、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案に関連して私の意見を述べさせていただきます。
 この法律の目的の一つは、生物多様性条約の下でのバイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書を我が国が締結するために必要な措置を取ることであります。カルタヘナ議定書は、遺伝子組換え生物等の利用に当たって、国境を越えた移動が生物多様性の保全や持続可能な利用に有害な影響を及ぼさないようにするための手続を定めたものです。
 私どもの国にももう既に遺伝子組換え生物等は輸入されてきております。これから我が国での研究開発が進みますと、今度は私どもの国からよその国に対して環境中で利用することを目的とした遺伝子組換え生物の輸出が行われることももちろんあり得るわけです。こういうふうに遺伝子組換え生物等の利用が進んで、それから国際貿易も盛んになっていくという状況下で遺伝子組換え生物等の安全な利用を国際協力の下で進める、こういう観点から、カルタヘナ議定書を締結することは我が国にとっても非常に望ましいことですし、必要なことだというふうに考えております。
 この法律のもう一つの目的は、カルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保することによって遺伝子組換え生物等の使用によって我が国の生物の多様性が損なわれることがないようにすることであります。
 現在、私どもの国では、環境中で産業利用をすることを目的とした遺伝子組換え生物の安全性というのは指針の下で確保が図られております。基本的には、開発を行った者が指針に従って安全性を評価して、その結果を所管官庁に提出する、そうしますと所管官庁がその評価結果を審査して、妥当であれば安全性確認をする、そういう仕組みです。
 現在、環境中での利用の安全性確認が済んでいる遺伝子組換え生物というのは、いずれも作物です。例えば、除草剤耐性の大豆、菜種、トウモロコシ、稲ですとか、害虫抵抗性のトウモロコシ、小豆、それから病気抵抗性の稲、メロン、キュウリその他、それから成分の品質を高めた大豆、稲、トマト、色変わりカーネーション、それから日もちをよくしたカーネーション、トマトとか、そういうものがございます。今年に入って低温耐性の稲の安全性確認が行われています。開発の方法は、従来の方法とは異なっているわけですね。遺伝子組換え技術も使っていますけれども、これまでの品種改良で目標とされてきたような特性の改良であると言うことができます。
 その一方で、現在開発が進んでいますものには、例えば医薬品ですとか工業原料を作るための作物、それから重金属を吸収したり、それから重金属を吸収する微生物とか環境浄化用の植物や微生物とか、それからそういうようにその利用実績がないもの、あるいはほとんどないような用途に使われるものですとか、それから遺伝子組換えサケのように、これまで品種改良の経験もないし、それから移動性が高い、そういうようなものも出てきています。
 そういうふうに、環境に導入して利用するための遺伝子組換え生物の開発は進んできておりまして、新規性の高いものというのがかなり視野に入ってきていると。こういう段階でこの法律が策定されるということは、もう非常に生物多様性の保全という観点から時宜を得たことであるというふうに考えております。
 遺伝子組換え技術が生まれましたのは、先ほどお話ししましたように、一九七三年のことなんですけれども、この技術はもう最初から非常に慎重に利用が進められたという経緯がございます。最初は、異なる種類の生物からの遺伝子を組み込んで作った生物ということなので思いも寄らないような性質があるんじゃないか、それから人の健康や環境に有害な影響を与えるのではないかということが大変心配されました。そこで、実際に何か有害な影響があったというわけではなかったんですが、危険性があるかもしれないということで、一九七四年、七三年に開発されて七四年ですから一年ですけれども、いったんそういう実験が中止されました。
 その後、翌年の一九七五年にアシロマというところで、世界じゅうの科学者百三十人ぐらい集まって遺伝子組換え実験の潜在的な危険性をどうやって、に対応していったらいいかという国際会議が開かれました。その会議で、組換えた遺伝子とその遺伝子を含む生物が施設の外に出ないようにする、これを物理的封じ込めと言っています。それから、施設の外に出ても生き延びないような生物を使おうと、これを生物学的封じ込めと言っていますけれども、その二つの方法でもって安全確保をしようということの枠組みが作られまして、翌年に、一九七五年にガイドラインが作られました。ガイドラインができた後で利用が開始された、再開されたということがあります。
 最初のガイドラインは、もう非常に厳しいもので、現在のものに比べますともう大変厳しくて、封じ込めが厳しく行われています。ただ、そういう条件の中で実験を進めていくうちにいろんな科学的な知見が得られまして、遺伝子そのものあるいは遺伝子の働き方その他に知見が得られまして、そういう知見を含めまして、だんだん当初考えられたような危険性はないということでガイドラインが緩和されて現在に至っているわけです。現在では、もうこの技術は、生物学とか医学の研究ではもう不可欠な基盤技術になっておりまして、ごく普通に使われている技術、多くの施設が使っている技術です。それで、その結果として、いろいろな医薬品ですとかホルモンですとか、そういうものが開発されているのが現状です。
 今度、環境中で、今までのお話は基本的には閉じた施設の中でということなんですけれども、環境中で使うということの実験は、最初にお話ししましたように、最初はもう禁止されていたわけです。ところが、だんだんガイドラインの下で個別に安全性を審査すれば実験をしてもいいというふうに変わってきまして、アメリカでは一九八五年に最初の野外試験が行われています。それから十七年ぐらいたっているわけですけれども、例えばアメリカですと、二〇〇一年だけでも千件の野外試験、それから栽培面積も、栽培が、商業栽培が始まりましたのは一九九二年なんですけれども、現在、昨年度の統計で五千二百六十万ヘクタールというふうな広さでもって栽培が行われていることです。それで、実際に商業栽培をしていて、野生生物種で地域個体群の縮小ですとか、地域個体群の形質の変化とか、そういった観点で見た生物多様性への影響を実際に生じているということは明確には報告されておりません。
 ただ、天笠参考人がおっしゃいましたように、実験室レベルでは若干のそういう知見がございまして、それが予兆になっていると。もちろん、害を及ぼすかどうかというのはその毒性の量とそれから暴露され方ですので、実験室の高濃度でチョウチョウが死んだとかそういうデータはございますのですけれども、そういうことは現実の栽培では起きてはいませんけれども、それは全くないかどうかということはちゃんとチェックしなければいけないということで、リスク評価をして、それに基づくリスク管理をして生物多様性に影響を生じることがないようにしなければいけないということはもう当然のことだと思います。
 その道筋を用意してその安全確保をしながら進もうというのがこの法律の趣旨でありますので、特に、前にもお話ししましたように、新規の組換え生物が開発されているというような状況でこの法律が策定されるということは、もう生物多様性の保全の観点から非常に重要であるというふうに考えております。
 次に、組換え生物の野外での使用に関するリスクの評価についてちょっと意見を述べます。
 そういう組換え生物を野外で使用する場合のリスクについて、OECDなど国際的な議論の場で合意されていることが幾つかございます。
 一つは、遺伝子組換え技術や遺伝子組換えを行うこと自体に特有なリスクはないということです。例えば、遺伝子組換え技術は従来から行われてきた作物の品種改良と比べて全く新しい種類のリスクを及ぼすものではないと、今まででも起こり得るあるいは想像できるようなリスクであるということです。
 それから、遺伝子組換え技術を用いる場合も、従来の品種改良でも、やっていることは遺伝子を変えてその性質を変えるということです。生物多様性などに影響を与えるものは、その特性の変化が影響を与えるということですから、そういうふうに見たときには明確に区別をするという必要はないのではないかというのが国際的な合意です。それは合意されていまして、アメリカのアカデミーも、一九八七年、八九年、二〇〇〇年、二〇〇二年と繰り返しこの点についての検討をしていまして、その都度この考えは支持されています。
 ただ、そういうふうに考えますと、それじゃ従来の品種改良では特別に規制も何もしていない、じゃ組換えについてはどうして規制をするかということになるんですけれども、遺伝子組換え作物について慎重な対応が必要だというのは、今までの品種改良では起こらなかったような幅広い改変ができるということです。そういう意味で、環境中で利用した場合に生物多様性に影響を生じるかどうかということをもっと幅広い視点からよく見なきゃいけないと、そういうことがありまして、そういう意味で、やはりリスク評価、リスク管理の体制をきちんと調べる、整えることが重要であると思います。
 それからもう一つは、遺伝子組換え生物のリスクというのは一つ一つ具体的に調べないといけないということです。
 よく遺伝子組換え生物は安全ですか危険ですかというふうな、そういう質問というのがございますけれども、一般的にそのリスクを論じるということはできません。遺伝子組換え生物の環境中での使用のリスクというのは、遺伝子組換えをする前の生物の生態学的な性質と、それから遺伝子組換えによって起こる特性の変化と、それからその生物を使用する環境と使用方法と、その三つの組合せで決まってくることです。
 ですから、その遺伝子組換えをする前の生物についても、例えば花粉を非常にたくさん飛ばすものとそうでないものとあるわけですし、それから入れる特性についても、成分を変えるものとかトキシンを入れるものとかいろんなものがあります。それから、使う場面も、畑であるあるいは水田であるというふうなところと、もうちょっと野外の自然環境に近いところで使うものといろいろございますので、できてくる遺伝子組換え生物の使用に伴うリスクというのも、余り心配しなくてもいいんじゃないかと思われるものから、やっぱり非常に慎重に扱わなきゃいけないんじゃないかと思われるものと非常に幅広いと。ですから、それを一つ一つ具体的に調べていくということが非常に重要であるということです。
 リスク評価についての要望をちょっと述べさせていただきますと、遺伝子組換え生物が開発された時点から今日までの間に新たに得られた科学的な知見に基づいて、随分安全性に関する考え方というのは変化してきています。閉鎖系に関しては、当初危険であるかもしれないと考えられたものが、そうでもないということが分かってきて緩和されてきたという経緯がございます。一方、新しい科学的な知見によって今度はリスク評価をするときに考慮すべき問題というのが新たに出てくると、そういうことももちろんございます。
 ですから、そういう意味では、リスク評価については新たな科学的な知見、どちらに向かうにしましても、新たな科学的な知見を取り入れることのできるような柔軟なシステムにすることが重要だと思います。それから、できるだけ幅広い知見を基に評価を行うこと、それから研究によって新たな知見の充実に努めることが重要であるというふうに考えております。そういう対応が取られることを要望いたします。
 それから、リスク管理についての意見ですけれども、この組換えの野外試験が初めて行われようとしましたときに、野外試験をするには安全でなければいけないと。ただ、安全であるかどうか調べるためには野外で調べなければいけない、そういう議論がございまして、絶対安全でないと外へ出せないということになりますと、もうイノベーションというのはそこで止まってしまう。絶対安全でないとやってはいけないということになると、絶対安全と保証できることはもうほとんどないわけですから、そこですべてストップしてしまうわけです。
 そうすると、イノベーションというのはやっぱり社会の発展に不可欠ですので、じゃ、不確実なところがある、そこでどうやってその安全を確保しつつ発展を図っていかなきゃいけないかという、それが難しい課題になってくるわけです。
 アメリカでは、こういう問題の解決策として、リスクを管理しながら慎重に少しずつ進めていくと、そういう方法を取っております。小さな規模で利用して、その利用をしながら、安全の確保をしながら利用して、そこで情報を集めて、そこで得られた情報を次につなげていく、慎重に規模を拡大していくと、そういうようなことを八五年時点からやってきたわけです。
 環境中で使用する遺伝子組換え生物のリスク評価で一番難しいのは、生態系が複雑なので、生物多様性への影響というのも評価が不確実性を伴うということです。そういう不確実性に対応するために利用を開始した後もリスクを管理するという方策を取ることが非常に重要で、今回の法案では、承認のときに予測することができなかった変化や承認後に得られた科学的知見によって最初に考えた使用方法でも生物多様性影響が生じるおそれがあると認められた場合にはリスクを管理するための手段が取れることが規定されております。この点が今までの指針とは大きく変わっておりまして、非常に高く評価できる点かと思っております。
 そういうふうに生物多様性影響が生じるおそれを早い段階で把握すると、そのためには日常的に注意深い観察が行われる必要があります。そのために、例えば栽培している人が契約に基づいて開発者に対して報告するとか、そういうシステムを導入することもあるかと思います。それから、場合によっては義務付けによって、栽培しながらこういう情報を集めなさい、こういうことを調べなさいというふうに義務を掛けて情報を集めると、そういう方法も取れるのではないかと思います。そういう方法として、費用効果の高い、リスクに見合った方法論というのを取り入れていただけるといいと思います。
 それから、生物多様性の影響を生じるおそれというのは遺伝子組換え生物に特有のことではもちろんないわけで、新しい生物を、外来生物を持ってくるとか、あるいは今までの栽培生物でもそういうことが起こるおそれはあるわけです。そういう意味では、そういうふうな観点から、より広い視野から生物多様性影響の監視を行う取組というのも検討の余地があるように思います。
 バイオテクノロジーというのが非常に経済的にも、あるいは国民生活にも、人間の利便性にもいろいろなインパクトがあると。そういうメリットが現実のものになるためには、その安全性や倫理面で十分な配慮が行われるということが必要ですし、国民が安心をして進めることができることが必要で、そのためにはそのリスクの評価や管理というのがきちんと行われる、それからきちんと行われているということが国民にちゃんと伝わることが必要だと思います。そういう意味では、国民に対する分かりやすい説明とか情報の開示が十分に行われて、透明性の高いシステムが築かれることを要望したいと思います。
 以上です。
 済みません。時間をオーバーして申し訳ございませんでした。
 ありがとうございました。
○委員長(海野徹君) 次に、鷲谷参考人にお願いいたします。鷲谷参考人。
○参考人(鷲谷いづみ君) 鷲谷です。どうぞよろしくお願いいたします。
 お手元にレジュメがあると思いますので、それに沿って意見を述べさせていただきたいと思います。
 私は、保全生態学分野の研究者の立場から、この法律が取り扱う生物多様性影響評価ということに限って意見を述べさせていただきます。
 保全生態学というのはまだ聞き慣れない言葉だと思いますけれども、生物多様性の保全、自然再生をも含む生態系の管理のための生態学の研究分野です。自然との共生という社会的な目標が最近クローズアップされてまいりましたけれども、それをサポートするための新しい研究領域で、一九九〇年代の後半ぐらいから生態学の応用分野として認知されるようになってまいりました。
 まず、生物多様性保全という目標がなぜ必要かということについてですけれども、それは一言で言ってしまえば、一番主要なのは、私たちにとって健全な生態系を持続させるためということになります。
 生物多様性の保全というのは、単に生物の種類数を多く確保するということではありません。進化の歴史を共有する生物種と、その環境要素から成る、そういう意味で調整済みの環境のネットワークとも言えるんですけれども、そういう動的で均衡の取れたシステム、歴史的に試されて動的な安定性を保つようになった健全な生態系を維持するために、在来の遺伝子、種、生態系を保全して、持続的に利用するということを意味しています。
 ここで、生態系という言葉ですけれども、生物多様性条約においては、植物、動物又は微生物の群集とこれを取り巻く非生物的な環境とが相互に作用して一つの機能的な単位を成す動的な複合体として定義されています。
 健全な生態系こそが人々の安全、健康で精神的にも満ち足りた生活と持続的な生産活動に欠かせない自然資源と生態系のサービスを持続的に提供することができると言えますので、それを維持することが目標となるわけです。
 ところが、二十世紀には、土地の大幅な改変、生物資源の不適切な利用、汚染などが加速して、地域からの種の絶滅や物理的、化学的環境要素の変化が進んで、多くの地域で生態系が単純で不安定なものになってしまいました。そのようなことが一層加速して不健全化の傾向があるわけですけれども、それを抑制すること、既に損なわれてしまった生態系の機能や要素の回復を図ることは、人類の持続可能性を確保するために現在の最優先課題ではないかと思われます。
 生物多様性は、そういう意味で、自然の恵みを生み出す源であると同時に、健全性を判断する目安でもあります。つまり、絶滅危惧種が増加していくということは、それだけ不健全化が進行しているということを意味します。
 ここしばらくの間、経済性や効率性だけに目を向けた人間活動が優勢であったため、生物資源の限界をわきまえない利用や森林、ウエットランドなどの開発に伴う地域的な大量の種の絶滅、ごく少数の種類の作物や樹木だけから成る人工的な生態系の拡大、広域的な富栄養化や汚染などが進行して種の絶滅も加速されますし、生態系の単純化、均一化が進んで、十分な健全性を保たれない状況になってきております。今までは、持続可能性が保証し難いということで生物多様性保全という目標が重視されているわけです。
 次に、生態系の不健全化と外来種の問題について一言触れたいと思います。
 外来種というのは、人為的に本来の生息域外にもたらされて定着する生物種、新規の生物種というふうにも言えるんですけれども、その侵入は、ある意味では生態系が単純化したという不健全化の結果でもあるんですけれども、同時に、新たな原因ともなって一層不健全化を加速します。
 少数の侵略的外来種、英語ではインベーシブ・エイリアン・スピーシスと言いますが、が不健全化した生態系に蔓延して、捕食や食害、病害、競争、交雑、生殖の攪乱、物理的な環境改変などを通じて在来種の地域的絶滅をもたらすことは、最近では世界じゅうで大きな問題として認識されるようになってきました。
 一部の外来種、生態系にとっての、新規の生物が侵略性を示すということは、次のような理由で生態学的な必然であると言うこともできます。
 一つは、競争力や繁殖力などにおいて、近縁あるいは機能的に類似の在来種よりも優性、勝るという、普通はそういう性質を持っているということです。
 どうしてそうなるかといいますと、一つは、人間がある目的を持って選抜して、大きな適応力を持っているものであったり、あるいは非意図的に入ってくるというようなことで、新たな環境に入り込むときに様々な関門をくぐり抜けたエリートであるということによっていますし、もう一つは、生態的解放という現象なんですけれども、これは、在来種がいろいろな病原生物や天敵などとのしがらみの中で苦しみながら生きているのに対して、多くの侵入生物というのは、病原菌や天敵は置いて単独で入ってくるということが多いものですから、そういうしがらみがないということでパワー全開というような状態ですので、在来種の関係においては優位に立つことが多いということです。
 それから二番目には、まだ外来種が入ってきて、在来種との間には種間関係の調整ということが進化的には進行していませんので、競合する生物やえさとなる生物や寄生される生物、病気、病原生物に対して病気になる生物ですけれども、そういう影響には歯止めがなかなか利きません。そのため、資源が独占されたり、食べ尽くされたり、致死的な病気が流行するなどということが起こりやすいということがこれまでの幾つもの現象から明らかにされています。
 新規の病原生物とか新規のウイルスが私たちの社会に大変厄介な問題を引き起こすことを考えるとこのことは理解しやすいと思います。新型のインフルエンザウイルスとかエイズとか、最近では毎日のように報道されているSARSなどが問題なのは、それらと人類が出会ってからの日が浅いので、まだ普通の風邪などのように進化的な調整というか、なれ合いが起こっていないことになるわけです。
 このようなことから、外来種の問題というのは生物多様性を脅かす主要な要因の一つとして認識されていまして、生物多様性条約でも、八条の(h)において、生息域内の保全のために締約国が取るべき措置として、外来種による影響の防止というのが掲げられています。そして、第六回の締約国会議ではそのための指針原則が採択されています。一方、同じその第八条の(g)にLMOの影響防止についても述べられていて、それに依拠してカルタヘナ議定書が採択されて今回の法律につながったわけです。つまり、生物多様性条約では、外来種の影響とLMOの影響は似たものとして扱われているわけです。
 LMOは生態系にとっての新規の生物であって、そういう意味では特殊な外来種と見ることができます。特殊性というのは、その生物にとって新規の遺伝子を持つこと、遺伝的な特性を人為的に操作されているということです。
 遺伝子組換え生物は、使われ始めてから日が浅いものですから、その影響についてはまだ具体的な知見が少なくって、具体的な知見を基に検討することが難しい状況です。それに対して、外来種についてはこれまで様々な事例があって、十分とは言えないまでも多方面からの研究も行われています。LMOの生物多様性影響評価については、外来種について得られている情報を十分に活用していくことが必要であると思われます。外来種影響事例の分析はLMOの評価にとって極めて重要なのではないかと考えます。
 例えば、いろんなことが明らかにされつつあるんですけれども、生物多様性影響が顕在化するのにどのぐらいの時間が掛かるかということですけれども、多くの外来種の場合、侵入直後から影響が現れるということはまれで、かなり時間がたってから問題が起こってくることの方が多いと言えます。日本での事例で見てみますと、今ブラックバスと同様に問題にされているブルーギルなどですと四十年間ぐらいたってから問題が生じています。また、今、畑や果樹園の厄介な雑草になっているハルジオンでは、侵入したのは明治時代なんですけれども、最近になって、ということは百年ぐらいたってから影響が大きくなっています。
 これらの場合は、新たな環境に入ってきた生物が適応したため、肉食のブルーギルが日本の湖沼などのえさとして水草などを利用できるようになったことであるとか、ハルジオンの方は、除草剤への抵抗性を獲得したために除草剤がたくさん使われる場所で爆発的に増えるようになって手ごわい雑草になってしまったというようなことがあります。このように、すぐには影響が現れないけれども時間がたつと影響が出てくる侵入生物というのは少なくありません。また、これらの例のように侵入した生態系において変わってしまう、適応進化することによって急速な増加や顕著な影響が起こり始めるということも、厄介な外来種問題というのはそういうことで引き起こされているようです。
 人為的に大量に持ち込まれて長期間にわたって使われていますとまれに起こる突然変異などが蓄積してきますし、自然淘汰あるいは人為淘汰による適応進化が起こりやすいものです。また、人がもたらす淘汰圧が強いほど、例えば同じ農薬をたくさん使うとか抗生物質などを連続的に使用するというのは強い淘汰圧を掛けるということなんですけれども、そういうことをすると適応進化というのは速く進みます。
 ですから、新規の生物が生物多様性への影響を与えるかどうかに関しては、ここに「量と時間と淘汰圧の法則」ということを書かせていただきましたけれども、たくさん使われて長い間使われていて、何か人為的に特殊な淘汰圧などを掛けると問題が起こることが多いと言えると思います。
 長期間にわたってと言いましたけれども、それはその生物の世代時間によって異なりますので、細菌などのように世代時間が短い生物ですと、私たちの感覚からいえば相当短期間のうちに進化が起こってしまうということになります。
 LMOの予測、評価のポイントについて述べたいと思います。
 まず、遺伝子組換えを施した生物そのものの侵入性、侵略性を考慮する必要があります。その予測についてですが、移動能力や分散能力が大きかったり競争力とか繁殖力が大きい場合には要注意だということになりますし、また、その種そのもの、あるいは近縁の種あるいは近縁ではなくても生態的に似た種が既にどこかで侵略的外来種として振る舞った例があるような場合には、この場合も要注意ということになると思われます。
 ここで重要なことは、遺伝子操作によって環境への適応性が高まる可能性があるということ、そのことに注目することです。例えば、害虫や除草剤への抵抗性であるとか、低温、乾燥など極端な環境への適応性などにかかわる遺伝子を導入したときにはその点を十分に考慮する必要があると思われます。
 次に、遺伝子そのものの生態系への侵入性です。
 遺伝子組換えを施した生物から別の生物に遺伝子が伝達されて、その生物が外来種としての侵略性を高める可能性を予測する必要があるということです。そのため、遺伝子が他の生物に伝達される可能性として二つのことを意識してチェックしなければなりません。
 一つは、交雑の可能性、つまり雑種を作る可能性です。これは、植物であれば花粉がどういうふうに分散するかということと非常に大きなかかわりがあります。それから、二番目は、トランスポゾン、ウイルスなどを介して組換え遺伝子が全く異なる遺伝子に伝えられる可能性、これを水平伝達と言いますけれども、その可能性について考えなければなりません。遺伝子組換えの遺伝子を導入するときに既にそういうことを技術として使っているものも少なくありませんので、そういう意味での動きやすさには留意が必要です。さらに、LMOから環境適応性を高める遺伝子を伝達された生物がどのような侵入性を示すかの評価が必要となります。
 それから第三に、比較的把握しやすい直接的な影響で、それについてはもう幾つかのものの報告などがありますけれども、生産される毒素、花粉だとか根からの分泌物の毒素が生物を殺傷する効果を持つなどということも、どのぐらいそれが生態系に影響があるかはともかく、既に報告例があります。また、そういう毒素が、強い毒素が存在することによって害虫などに抵抗性を進化させる効果というのも心配されていて、アメリカ合衆国では、抵抗性の進化をモデルでシミュレーションをして、毒素遺伝子を導入した作物の作付面積をある比率以下に抑える方針なども取られていたりもします。
 四番目に、最も評価が難しいと思われることなんですけれども、複合的な要因として生物多様性に影響を及ぼすということです。これは、LMOあるいはLMOから遺伝子を伝達された生物が、競合、捕食、病害などを通じて野生動植物の個体群の絶滅可能性を高める効果なのですけれども、こういう絶滅可能性にかかわる要因としましては、生育、生息場所が縮小、分断化していることであるとか汚染や他の外来種の影響など、もう既に多様な要因がありますので、それとどのようにふくそうして働くかというようなことを予測しなければならないわけですが、この評価をどのように合理的に行っていくかについては今後に大きな課題が残されていると思います。
 次に、生物多様性影響評価における予測の不確実性と、それへの対処法について述べたいと思います。
 自然現象一般の予測と同様、生物多様性への影響の予測にも当然不確実性が伴います。環境の変化や生物自身の適応進化により、時に性質が変化したり、そのことによって爆発的に増殖したりすることがあるということで、純粋な物理的現象に比べて予測の不確実性は大きいと言えます。例えば、伝染病の予防や根絶の難しさというのは、病原体が急速に予測不可能な方向に進化するためです。これまで、抗生物質や抗ウイルス剤の投与は短期間のうちに薬剤抵抗性を進化させていきましたし、異なる薬剤の併用によって多剤耐性菌を進化させたという経緯もあります。
 こういう、ちょっと予測にとっては不確実性が高い対象ということなんですけれども、二つの、その不確実性には二つの要素があって、評価の制度においてはそれら両方に対して適切に対処できることが求められると思います。
 第一は、今もう既に述べたことなんですけれども、評価する対象そのものの複雑性、可変性に由来するものです。多様な要素と関係性から成る生物多様性、生態系、絶えず変化する可能性のある生物といった複雑で変わりやすいものを評価しなければならないことに伴う不可避的な不確実性と言えますが、これに対処するには、まず第一に、予想外の事態への対処法を確保する、しておく必要があると思います。それは、万が一、十分予測し切れなかった影響が現れた場合に、それを取り除く具体的な手段の有無が、その生物を根絶したり封じ込めたり、あるいは制御するための実行可能で有効な手段があるかどうかを評価において重視することが必要であると思われます。それから、予防的な取組を重視すること。つまり、十分な科学的な確証によって予測ができなくても、影響が疑われるときには慎重な選択をするということです。
 それから第二になんですけれども、知見の不足ということなんですが、生物多様性影響、生態系における遺伝子の挙動。もしかすると、組換え体の中における遺伝子の挙動についてもまだ知見が十分でない点も多々あると思います。それから、この意見表明で何回も述べてきたミクロな進化に関する科学的知見が不十分だということです。これに対しては二つのやっぱり対処法が必要だと思います。一つは、必要な科学的知見を増やすための研究の強化です。それからもう一つは、評価の結論が出て、使い始めた後に新たな知見が得られた場合に、それに応じて柔軟に方針の変更ができることを保障することだと思います。
 最後に、評価の確実性を高めるために強化すべき研究の分野を、下の方に項目を挙げたんですけれども、環境に放出されるLMOとその地域の生物多様性の双方に関する十分な科学的な知見に基づくことで有効な評価がなされると思われますけれども。それから、生態系レベルでの遺伝子の動きや振る舞い、交雑や水平伝達についての十分な知見が欠かせないわけですが、現状では、LMOの利用のためのバイテクの研究というのは研究者も非常に多くてたくさん研究が行われているんですけれども、生物多様性影響評価の基礎となる生態学や進化学、生態遺伝学の研究はごくわずかしか実施されていません。そういうようなアンバランスを解消して評価に必要な知見を増していくことが求められると思います。
 時間がかなり過ぎてしまっているようですので、あとは、下にただ項目が挙げてありますので、お目通しいただけたらと思います。
 どうもありがとうございました。
○委員長(海野徹君) 以上で参考人の皆様からの意見聴取は終わりました。
 それでは、これより参考人に対する質疑に入ります。
 なお、各参考人にお願い申し上げます。
 御答弁の際は、委員長の指名を受けてから御発言いただくようお願いいたします。また、時間が限られておりますので、できるだけ簡潔におまとめ願います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○段本幸男君 自由民主党の段本です。自由民主党・保守新党を代表して、四人の参考人に少しお教え願いたいと思います。
 今日はお忙しい中、四人の参考人から御意見聞かせていただきまして、ありがとうございました。私どもの非常に技術的には知識の薄い部分で、今日、御意見聞かせていただきまして大変参考になった部分があったと思うんですが、まだまだ不理解の部分もありますから少し陳腐な質問もあるかもしれません。御容赦いただいて、お伺いしたいと思います。
 まず、遺伝子組換えというその技術そのものについて岩槻参考人と天笠参考人にお伺いしたいんですが、この遺伝子組換え技術そのものの評価が、私の場合もそうですし、あるいは国民も恐らくそうではないかと思うんですけれども、未知なるものに対してまだまだ片っ方では不安感持っている。しかし一方では、天笠参考人の資料にもありましたけれども、私の調べたんでは、例えば大豆なんかで見れば、アメリカで生産されている大豆の七五%が既に遺伝子組換え商品だ。そして、日本の輸入されている大豆のうちの七五%がアメリカからの輸入に頼っている。大豆はほとんど輸入、自給率が非常に低いですから。多くがこれが油になって、食用油なんかで実際に自分たちの中に入っている現実があるようですけれども。そういう知識の、まだまだ自分たちの中へ入っていない、天笠参考人の話では表示制度の未熟さだと、こういうふうなことになるのかもしれませんが、そういう面と、片っ方でしかし、先ほど加藤参考人がおっしゃったように、例えばカドミ吸収する稲。環境を改善するために遺伝子組換え技術が既に活用されて、いろんな面でやっていこうとする。
 これから二十一世紀の人間にとっても絶対やっぱりその必要な部分、そういう部分とのギャップが非常にあって、どういう選択を本当にしていくべきなのか。あるいは、現在、法律が考えられる以前に、そのギャップを埋めるための対策としてどういうものが取られていくべきなのか。その辺について、岩槻参考人と天笠参考人からお伺いしたいと思いますが。
○参考人(岩槻邦男君) 先ほどもちょっと申し上げたことなんですけれども、生物界の中、生物が多様化してくるというのは、要するに遺伝子が移り変わってきて多様化してきたということなんですけれども、その多様化の過程で生物が異種間で遺伝子の交流をやっているというのは、もう生物の自然の進化の中でも起こっていることなんですよね。さらに、人為的にも、農業、牧畜が始まって、栽培、飼育・栽培動植物の作出を行ってきた過程でも様々な遺伝子の組換えということはやっているわけですよね。ですから、遺伝子組換え、異種間で遺伝子の組換えをやるということ自体はそんなに珍しいことではないんですね。
 ただ、遺伝子組換えという言葉がそのころにはまだなかったわけですけれども、今そういう言葉が作られて、しかもそれに対して様々な説明が行われているといいますのは、つい先日もヒトゲノムが全部解読されたという話にありますように、DNAの塩基配列というのがちゃんと読み取れるように技術的になってきた。そうなってきたときに、その遺伝子の適当なところを切って、適当なところを切ってほかのところに移し替えるというような技術もできるようになってきた。だから、それは自然界において、例えば葉緑体が細胞内共生で生じてきたとか、あるいは雑種を、人工的な雑種を作ったり倍数化をしたりすることによって、異種間の遺伝子を交流させて新しい品種を作出したというのとは違った形のテクニックで出てくるようになってきたものですから、遺伝子組換えということが、改めてそういう言葉も作られ、話題になってきたということなんですよね。
 ただ、だからその技術が、そういう技術が一体どこまで、生物多様性に対して安全な技術なのかそうでないかということが問題なんですけれども、これは先ほど加藤参考人が比較的詳しく説明されましたので、もう同じこと反復はしませんけれども、一番最初は、それは非常に危険な要素があるということで、封じ込めの実験が進められて、それ以後、その実験的な、実験で実証されているその安全性というのは随分認証されているわけですね。
 ただ、しかし、先ほども申しましたように、生物多様性に関する我々の科学の知見というのはまだまだ不足ですから、それだけでは、封じ込めの実験だけでは分からない問題が非常にたくさん残されている、残念ながら非常にと言わざるを得ないんですけれども、たくさん残されている。
 それが具体的に封じ込めから外へ出されてきたときにどういう影響をもたらすかということが正に問題になってきて、だから、二千数百年前に新石器時代ができたときに飼育・栽培動植物を人為的に作出しないといけなかったのと同じように、今、人口が既に六十億を超えて、更に二〇二五年には九十億にも達すると言われますし、さらに人間のいろんな資源に対する要求が非常に多様になってきたときに、今の資源の与え方では不十分だということになりますと、様々な科学的な技術を応用して資源の産出をしないといけないということももう一方では非常に重要なことなので、そことの兼ね合いで、その産出した資源がどれだけ安全かどうかということのリスク評価あるいは管理が必要だということが、正にカルタヘナ議定書で言われていることであるというふうに理解できる。ですから、遺伝子組換えに対する安全性というのは、科学で実証されている部分もあるけれども、そうでない部分もまだ残されていると言わざるを得ない。
 ただ、ですから、その意味で、いろんなリスク管理の過程で情報が開示される、開示されるだけじゃなしに、先ほど、今御質問の中にありましたように、十分、まだ国民一般に対して説明責任が全うされていないという部分がありますので、その部分も含めて情報の開示ということがますます必要になってくるというふうに理解しております。
○参考人(天笠啓祐君) 遺伝子組換え技術そのものをどう評価するかという問題が一つあると思うんですけれども、私はいつも出刃包丁に例えているんですけれども、例えば、よく聞かれます、遺伝子組換え技術に賛成ですか、反対ですかと。賛成も反対もないんだということなんですね。
 出刃包丁、要するに使いようだということなんです。これは非常に役に立つ使い方というのもありますし、時にはそれは人殺しに使えるかもしれぬ。だから、使い方が非常に問題なんだということをずっと言い続けてきているんですけれども、そのため、やはり非常にこの優れた技術というのは逆に、反面といたしまして非常に危険な技術でもあります。ですから、使い方が非常に慎重であるべきであろうというのがまず基本的な立場であります。
 それから、何がやはり一番慎重さの中で求められるかといいますと、以前スーパーマウスというのが作られたことがあるんですけれども、これは遺伝子組換えのマウスでありますけれども、ラットの成長ホルモンを入れまして二倍の大きさのマウスができたんでありますけれども、話題になりました。
 その後、やはり研究者の間でスーパーカウ計画というのが持ち上がるわけですね。二倍の大きさの牛ができれば、これはすごい、お肉がたくさんできるとか、そういう話になるわけでありますけれども。しかしながら、その実験で作られました、スーパーカウ計画でできました遺伝子組換えの牛というのは非常に悲惨な牛だったわけでありまして、それで、そのスーパーカウ計画自体は挫折していくわけでありますけれども。
 例えば、やはり成長ホルモンを投与して成長を無理やり早くしようとしますと、当然ながらそこで、成長ホルモンによって成長を促進された場合に、体全体が付いていけない部分って必ず出てくるわけですね。例えば骨が弱くなったりとか、あるいは内臓に異常が起きたりとかですね。ですから、そういう自然の摂理に反することを行いますとやはり異常ができると、異常な部分が必ず出てきてしまうというのが一つのポイントだと思います。ですから、自然の摂理の範囲内に、自然の摂理をやはり大切にしてほしいというのがまず一つの思いとしてあります。
 それから、例えばBSE、狂牛病の場合ですね、やはり草食動物の牛に肉骨粉を与える、それで共食いまでさせるという自然の摂理に反する行為を行ったと、それが原因の一番の基本的なところにあると思っております。ですから、遺伝子組換え技術というのは種の壁を超えて遺伝子を入れます。これ自体、自然の摂理に反することなんですけれども、こういう自然の摂理に反する行為の中で、よりやはりそういう自然に負担を掛けるような、あるいはその生物に負担を掛けるようなことに関してはやっぱりより慎重であるべきであろうということなんであります。
○段本幸男君 ありがとうございました。
 次に、遺伝子組換え生物と生物多様性について加藤参考人と鷲谷参考人にお伺いしたいんですが、これまでも一応各省のガイドラインでこれらのことはやられてきましたし、開始前についてはほとんどそれを踏襲し、開始後については確かに新しい、できて、その部分についての評価がまだ不十分かどうかについて意見の分かれるところなんですが、少なくとも開始前については基本的に同じようなものを踏襲してやってきている。
 先ほど鷲谷参考人は、外来種の例を学ぶといい、非常に長くたってから影響の出てくるものもあるんだからというお話もありました。一方、加藤参考人は、確かに慎重ではなきゃいけないけれどもずっと慎重ではいつまでたっても野外に出せない。やはり果敢の部分もあって、初めて技術が進歩していくんだということもおっしゃいました。
 そういういろんな意見の中で、取りあえず今回の法律は第一歩として、そのまま今までのガイドラインを第一歩スタートラインにそのまま踏襲してやろうとしているんですけれども、その一番最初のスタートラインが非常に大事だと思うんですね。これからは、各委員ともおっしゃっているのは、バイオというのは物すごくこれからの技術進歩に伴ってやっていくんで、最初は慎重にやっておいて、徐々に明らかになった知見に基づいてその指針を次第に緩和していくような技術手法だろうというふうにおっしゃっているんですが、その第一歩が非常に大切になると思うんですが、その第一歩が今の状態でいいとお考えなのか、もう少しこうだとか、そういう意見を技術的に加藤参考人と鷲谷参考人にお教え願いたいと思います。
○参考人(加藤順子君) 指針の段階での評価と、それから今度作られようとしています法律と、一つ違うのは、先ほど申し上げましたように、後で管理をするということができるようになっているかどうかという点なんですけれども、もう一つの点としまして、今度の法律では最後の方にリスク評価についての国民の意見を聞くというようなところがあったかと思います。今までの評価ですと、特定の、役所で選ばれた専門家がそこで、余り情報が開かれていない中で審査をしたということだと思うんですけれども、今度はもう少し広く、それが外に見える格好になるとしますと、今まで取り入れられていなかった視点というのがそこに入ってくる可能性がありまして、やはり慎重にという中には、いろんな角度から眺めてみて、今までほかの人が気付いていなかった点でこういうことももしかしたら考えなきゃいけないんじゃないかということが出てくる可能性もありますので、そういう意味では広い視野から見るということができるようになっているというふうに私は理解しておりまして、そのことは今までとちょっと違う点だろうというふうに考えています。
 それからもう一つは、最初の一歩、何でしたか、それでお答えになっていますでしょうか。
○段本幸男君 はい。
○参考人(加藤順子君) はい、済みません。
○段本幸男君 ありがとうございました。
○参考人(鷲谷いづみ君) 制度そのものがどういう制度かということもあると思うんですけれども、運用の在り方もあるように思います。
 これまで遺伝子組換え生物の利用、野外での利用に、検討するに当たって、どのぐらい生態系に関する知見を持った研究者等がそれに参加してきただろうかと、あるいは進化のモデルを作ってやや長期にわたることについて予測できるような専門家が加わっていただろうかということを考えると、もしかすると、これで法律が作られて新たな体制ができるに当たって、生物多様性影響評価ということがきちっと打ち出されるわけですけれども、そこで、その体制ですね、人の問題もありますし、知見が足りないといっても最新の科学を利用すればもう少しはできるんじゃないかと思われる。今まで、単にちょっと圃場で実験してみるというのは生態系のことを理解するには余り十分ではないように思うんですけれども、もっと生態系レベルでのことを評価するにふさわしい手法が取り入れられるんじゃないかということも思いますし、また、そういう要求が出てくればそういう分野の研究の発展というのも望まれるんではないかと思います。
 そういう意味では、不確実性は必ず残りますので、先ほど申し上げたような対処法というのをきちっと取るということが重要だと思いますけれども、だんだんにより良い評価ができるようになっていくんではないかと考えております。
 以上です。よろしいでしょうか。
○段本幸男君 ありがとうございました。
 最後に、カルタヘナ議定書について、米国がどうも今のところ批准しておりませんし、今後も批准する見込みは非常に薄いんではないかというふうに言われておりますけれども、この点に関して岩槻参考人にお伺いしたいんですが、実際には輸出国としての通知が日本にないという中で、そういう問題もありますし、含めて、あれだけ非常に遺伝子組換え生物に対して熱心な国が、そういう状況の中で日本というのは農産物輸入に関しては圧倒的にアメリカからのいろんなものが多い、あるいは農産物そのもの、大豆そのものではなくったって、飼料とかいろいろなものに混ざってそういうものが入ってくる可能性がある、こういう中で日本はどういう行動指針を取ればいいのか、その辺について岩槻参考人のお考えをお聞かせ願いたいと思います。
○参考人(岩槻邦男君) アメリカは、カルタヘナ議定書だけではなくて生物多様性条約そのものをまだ批准していません。
 実際、生物多様性条約を作りますときにはアメリカの研究者が非常に大きくコミットしてきて大きい貢献をしているんですけれども、それにもかかわらず政府レベルではまだ批准ができていないというのは私ども非常に残念なことだと思っています。そのことに関しては我々研究者同士では始終話はするんですけれども、日本政府ももっと政治の力でアメリカにそういうことを説得していただきたいというふうに我々サイドからも非常に希望していますけれども。それは基本的にはその知的所有権の問題にかかわっていることで、生物多様性の保全ということをアメリカの政府が否定しているというふうには私たちも理解していないんですけれども、その知的所有権の配分をどうするかということに尽きているみたいなんで、そのことは、すべてのことがグローバルに考えられないといけないという今日ですから、アメリカの利益だけで考えていただいては困るので、日本政府もそういうことを説得していただきたいのはそういう意味ですけれども。
 カルタヘナ議定書に関しても同じことで、研究者レベルで議定書作りに非常に大きく貢献している人はアメリカ人の中にたくさんいらっしゃって、物事の重要性ということに関しては十分理解されているんだと思うんですけれども、知的所有権ということが関与してきますと、ついついこういう大国が後ろ向きになるというのは極めて残念なことだと私どもは思っております。
○段本幸男君 ありがとうございました。
 以上で、時間も参りましたので、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
○福山哲郎君 民主党・新緑風会の福山と申します。よろしくお願い申し上げます。
 今日は、参考人の皆様方におかれましては本当に貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。次の法案審議に大変参考になりまして有り難いと思っています。
 先生方のお話を伺うと、共通をしたことが幾つかあるというふうに承りました。それは、一つはやっぱり不確実性というか、非常に科学的な知見の問題にしてもまだまだ分からないことが多いと、だから安全性の評価等についても非常に慎重にやってくれと。岩槻先生がおっしゃられました、科学はどれだけのことを知っているのか、我々がどれだけのリスクをチェックできるのかというお言葉は大変重たいと思いますし、天笠先生は科学的な知見を含めて予防原則を取り入れてほしいというようなことを言われましたし、加藤先生におかれましてもリスク管理で絶対安全ということはないので安全を図りつつ発展を目指していかなければいけないと、鷲谷参考人に至っても基本的に生物多様性の確保のために分からないことが多いというようなことをおっしゃられて、それぞれの参考人の皆さん、表現は違いますが内容的には僕は随分共通をされたことを言われたなというふうに承りました。
 じゃ、この法律をどう評価するかということの場合に、私、非常に重要なのはやはり第三条の、主務大臣が基本的事項を決めなければいけないんですが、そしてこれを公表することになっているんですが、この中身がこの法律ではまだ分かりません。
 それから、例の事業者が輸入をしてきたときに事業者自身がリスク評価をしてそして主務大臣に申請をするわけですが、それを主務大臣は有識者、学識経験者に意見を聴くということになっていますが、それも一体どういうリスク評価が事業者によってされていくのかとか、どういう学識経験者によってその申請が諮られるのかということも分かりません。
 ですから私は、法律のスキームとしてはカルタヘナの議定書を担保するための法律としてこういうことができたことは非常に評価できると思いますが、本来的にこの法律が機能するかどうか、先ほど鷲谷参考人も言われました運用次第かどうかというのは正にここからの中身に懸かっているというふうに思っておりまして、そういう点において幾つかお伺いをしたいと思います。
 まず岩槻先生にお伺いしたいんですが、先生は、私ちょっと論文を読ませていただいたんですが、今日の話の中では生物多様性で我々はどのぐらい分かっているのかということを言われたんですが、先生自身は生物多様性の危機だということをはっきりとおっしゃっておられます。危機の認識が日本人は足りないし政策決定者も足りないというようなことを論文で書かれておりまして、具体的にどのような点が危機だというふうに思われていてどういう状況に今あるのかということを、簡単には言いにくいと思いますが、教えていただけますでしょうか。
○参考人(岩槻邦男君) 最初にお断りしますけれども、科学的な知見が非常に乏しいという言い方をしましたけれども、それは、一方では二十世紀に科学が飛躍的に進んでいるというのが常識になっているというそういうベースで申し上げているんで、科学者がサボって何にもしていないと言われたら困りますので言っておきますけれども、すごく科学が進んでいる側面もあるわけですよね。例えば遺伝子組換えというようなことも、私どもは進化を研究するときに遺伝子組換えのような技術を使うというのが非常に有効に機能しているということもありますから、そういう意味でうんと進んでいるけれども、進んだ進んだといってもこの程度だということを申し上げているんだということを御理解いただきたいと思うんです。
 ですから、生物多様性についてもう最近いろいろな施策が行われているというのは非常にいいことだと思うんですけれども、それでもまだ生物多様性に対する対応からいいますと非常に遅れている部分がある。例えばですよ、例えば絶滅危惧種の問題というのは、絶滅の危機に瀕している種の問題というのは、日本でも、多少欧米から後れましたけれども、様々な手当てがされるようになったんですけれども、しかし絶滅が危惧されている種というのが非常にたくさん挙げられているうちで実際の施策が行われているのはごくごく一部だけというのが現状ですよね。
 しかも、こういう生物多様性に対する様々な人為の影響というのが現れるのは実は子や孫の世代なんですよね。今、我々が手当てをしておかないと子や孫の世代に非常に厳しい状態が出てくる。子や孫が気が付いたときにではもう既に手後れでどうしようもないわけですね。
 そういうことに対する認識が、研究者もですけれども、政策決定者も、それから様々なところで非常に欠落しているんじゃないかということに危機的なことを感じているということをあちらこちらで申し上げているということでございますけれども。
○福山哲郎君 ありがとうございます。
 それに対して、その危機的な状況に遺伝子組換え生物の科学的な技術が進んでいるということ自身はどのように影響を与えると岩槻先生自身はお考えなんでしょう。
○参考人(岩槻邦男君) 先ほどもちょっと申しましたように、資源に対する要求というのは、人口が増え、それから人間生活が多様化してくるということになりますと、これは徐々に増えていくんじゃなしに急速に増えてくるということを覚悟しないといけないということなんですよね。
 本当は、私どもは実は学術会議でもつい最近そういうことで報告を出させていただいたんですけれども、二十世紀的な、エネルギーに非常に偏った、エネルギー志向に偏ったような生き方をしておったんではとても二十一世紀は生き切れないですから、今言われる持続的な社会、サステーナビリティーというのを維持するためには生き方自体を変えるということを考えないといけないということを強く主張させていただいているんですけれども、ただそれが今すぐグローバルに変わっていくとはとても期待できませんので、そうするとやっぱり二〇二五年には九十億になるというその予測に従った様々な対策をしていかないといけないということになるかと思うんですけれども、その場合には、資源に対する取り合いで戦争が起きないようなことをするとしますと、しようとしますと、やはり今の科学的知見を最大限有効に利用してどういうふうに確保していくかということを考えざるを得ないわけですよね。そういう対策が例えば遺伝子組換えで新しい作物を作り出そうということにも生かされている。
 例えば、砂漠の緑化ということが言われますけれども、そこで稲を作ろうとしても耐塩性の強い稲がないと育たないわけですけれども、そういうものを作るというのはやっぱりこれまでやってきた細胞遺伝学的な手法だけによる育種ではとてもできないことなんで、やっぱり進んでいる部分を活用した部分というのがどうしても必要になってくるわけですね。
 そうやって資源に対する対応を科学者としては対応していくということになりますと、先ほどからも議論されている今度はリスクのことが出てきますので、一〇〇%分かっていないことに対する対応ですから、それに対する保障をどうしていくかということを例えばカルタヘナ議定書のようなことで裏打ちしていかないといけないということだというふうに理解しておりますけれども。
○福山哲郎君 天笠参考人にお伺いします。
 先ほど私が申し上げました、主務大臣が公表をしなければいけない基本的な事項の中身が重要だというふうに私は感じているんですが、天笠参考人も先ほどのお話の中で情報の開示の在り方とか市民の意見を反映できる仕組みが必要だと言われましたが、もう少し具体的に、こういったことがこれから先必ず必要だと、表示の問題もあると思うんですが、何かもう少し御示唆をいただけるようなものがあれば教えていただければと思います。
○参考人(天笠啓祐君) 情報公開なんですけれども、今まで私たちといいますか、いろんな市民団体が情報公開というのを求めてきました。例えば遺伝子組換え作物の環境への影響ですとか、食品の安全性に対する影響について、審議の過程が一切公開されておりません。ですから、審議会でどういうふうに安全性を評価したかとか、あるいは問題点は何かなかったのかといった点が一切公開されてきませんでした。ですから、そういう審議の内容自体を公開してほしいというのがまず一つあります。
 そうしなければ、いわゆるブラックボックスの中で結果だけが出てきてしまうという、そしてそれでパブリックコメントを求めるという形になってきますと、結局パブリックコメントを求めて出しても、最初にもう結論ありきでありまして、変更されたケースというのはほとんどありません。ですから、結局、情報が公開されないということは、結果的にも結果が変えられないということにもつながってきます。
 ですから、そういった意味でいいますと、やはり安全性評価というのは、食品の安全性にしろ、環境への影響の評価というのは、この生物多様性条約でもうたわれているように非常に重要な問題ですので、国民生活や私たちの健康、あるいは自然を守るためにも大変重要なポイントですから、その過程が逐一公開されるような仕組みにしてほしいというのが一番大きな点であります。
○福山哲郎君 加藤参考人にお伺いします。
 先ほどの段本委員の質問にもちょっと共通をするんですが、恐らく最初は文科省、厚労省、農水省、経産省が持っている遺伝子組換え生物にかかわるガイドライン、いわゆる指針が元々のスタートでこれ始まると思うんですが、先ほど加藤参考人は、新たな科学的知見を取り入れる柔軟なシステムが必要だというふうにおっしゃられました。
 それともう一つ、この法律は生物多様性を確保するための法律です。
 この現状のあるガイドラインは、生物の多様性を確保するのにこれはまだまだ改善の余地がたくさんあるのか。各国の状況とかも加藤参考人はいろいろごらんいただいているようなので、もっと改良する余地があって、そのための柔軟なシステムとしてどういうふうな仕組みがあれば、ガイドラインが途中で変わったり、生物多様性がより確保できたり、また海外との関係も含めてバランスが取れるようになるのか。その辺のことについて、具体的に何かお考えがあればお教えいただけますでしょうか。
○参考人(加藤順子君) 今、環境中で利用される遺伝子組換え生物の審査をやっています、審査というか安全確認をやっておりますのは、農水省の指針とそれから経産省の指針と、二種類かというふうに理解しております。文科省の部分については個別審査になっていますので、具体的にどういう項目ということが見えておりませんので、と理解しています。ちょっと私、不確実かもしれませんが。ですから、産業利用に関しては農水省と経産省ということかと思います。
 それで、項目自体については、基本的には、カルタヘナ議定書の中にリスク評価の項目というのが、やり方と項目というのが附属書に入っておりまして、そこに書いてあるような項目は基本的には入っているかと思います。ですから、もうちょっと改善の余地があると思いますのは、先ほど鷲谷参考人がおっしゃいましたように、もう少し生態学の専門家が審査にかかわるということが一つは大事な点かなというふうに思います。
 それからもう一つは、新しい科学的な知見というのが出てきたときに、それに対して迅速に対応して、どういうスタンスに持っていくか、それをどういうふうに解釈するか、それをどういうふうな審査に反映させるかということはもう少し迅速にできるといいのかなというふうに思いまして、それは例えば情報の収集ですとか、それからその収集した情報に対して審議会あるいは審査にかかわる学識経験者のレベルでディスカスをもう少しするとか、そういうような体制が組めるかなというふうに思います。
 それからもう一つは、やはりこの問題はどの国でもぶつかっている問題でして、ですから、そういう意味では、研究ですとか知見を国際的に共有して、国際的な協力でもって一番弱いところの研究をやっていくとか、そういうような国際的な協力体制を取るというのも一つの方法かと思います。
 以上でございます。
○福山哲郎君 ありがとうございます。
 鷲谷参考人にお伺いします。
 先ほど大変詳しく御説明をいただいたのであれなんですが、鷲谷参考人の話で、短期的には遺伝子組換え作物によって食害抵抗性や病害抵抗性を発揮するかもしれないけれども、でもそれは、結果としては一時的な結果しか続かなくて、社会全体としては、実は害虫が抵抗性が増したりとかして社会的なコストは実はそっちが掛かる可能性があるとおっしゃられました。
 先ほど岩槻参考人が言われた、人口増大をして、なおかつ資源が必要な状況の中で、短期的にはそういう話は出てくるんでしょうが、結果としては社会コストが掛かるという鷲谷参考人が言われた話の一体どこに接点を見いだせばいいのかというのは、僕らはお話を聞いていてもすごく難しいなと思うんですね。それを政策決定の場では判断をしなければいけないし、なおかつそれを国民に安全だということを説得もしなければいけない。でも、安全だということはひょっとしたら五十年とか百年先にしか分からないというような話も今日の参考人の皆さんのお話でありました。
 こういう状況の中で、我々は一体、難しい質問なんでお答えにくいかもしれませんが、一体どこに力点を置いて判断をすればいいのかとか、今日お話聞いていて本当にどうしようかなと思っているんですが。鷲谷参考人、もし、済みません、こんな抽象的な質問で怒られるかもしれませんが、お答えをいただければ。
○参考人(鷲谷いづみ君) 遺伝子組換え生物の利用に限らず、同じことをたくさんやって単純なシステムで効率を上げようとすると、一時的には大変効率が上がるんですけれども、でも長期的に見るとそのシステムがまた崩壊してしまって、それと同時に環境の健全、生態系の健全性が失われるということをかなりこれまでも経験してきていると思います。
 それは、遺伝子組換え作物などの利用に限ったことではないものですから、そういうやり方というのは多少危険だという認識が広まってきていると思いますけれども、それを何で判断していくかということなんですが、そこで生物多様性という視点を持って、生物多様性が失われないということをしておけば、生態系が不健全化して持続性がもう失われてしまうというようなことは避けられるんではないかという、一つの今の時代の生物多様性を保全、そうですね、そのときには短期的には生物多様性を保全するということは非常にコストが掛かることかもしれませんけれども、そういうことをしておくことによって後の世代の生活なり生産を守るという視点があると思うんですね。生物多様性影響評価と今言われていることは、そこまでをすることができる、不確実性もありながら。
 それで、じゃ、どういう手法で、例えば食物の増産、食糧の増産をどうしていくかということを決めるのは、そういう生物多様性にはこういう影響があるかもしれないということを踏まえた上で、それはリスクに関する、不確実ではあるけれども、ある情報ですね。それとそのことが、だれかにとって、あるいは広く人類に何らかのメリットがあるわけですね。リスクを被るのはもしかしたら後の世代であるということを十分に認識した上で何らかの判断をしないといけないと思うんですが、その判断は、もしかすると自然科学の範囲ではなくて、私たちは情報を提供をします、もっと総合的に見て、今のリスクとメリット、それから公平性とかを見ながら社会が御判断いただくということなんじゃないかと思います。
 だから、生物多様性影響評価で、そこまでの判断は求められてはいないんじゃないかと思っております。
○福山哲郎君 実は、正にこの遺伝子組換え生物の問題だけではないんですね。ついこの間、私もこの環境委員会で環境大臣相手に予防原則を導入するべきだと別のことで言って、いや、それは科学的知見がなければというような議論を、押し問答して、正に今日も同じ話なんですね、昨日も。
 要は、安全か、なおかつ天笠さんの僕、論文を読んで実はあっと思ったんですが、安全か危険かということで、どちらかにはっきりしているものはむしろ対処しやすいが、問題は安全か危険かを判断しにくいグレーゾーンの場合であると。そのグレーゾーンのときに危険だと分かった場合の対策を立てておかなければいけないと天笠さんの論文に書かれていました。正にそのとおりで。
 済みません、何か愚痴みたいな質問になりまして申し訳ありませんでしたが、とにかく本当に今日いろいろお話を伺わせていただいて、より法律的に、先ほどの透明性の問題やどういう人選が行われるか等をきっちり審議の中で確保していきたいと思いますので、大変貴重な意見、ありがとうございました。
 終わります。
○加藤修一君 公明党の加藤修一でございます。
 今日は四人の参考人の方々、お忙しい中おいでいただきまして、誠にありがとうございます。
 四人の参考人の方々から、予防原則の関係あるいはリスク分析ということでリスクの評価、管理あるいはコミュニケーション、そういった面の話をいただいたり、あるいは私、初めて聞いたなと思っておりますのは、量と時間と淘汰圧の法則という、こういう法則があるとは私はちょっと知りませんでした。非常にそういった意味では全体通して非常に参考になりました。
 実は昨日、化学物質審査規制法、これの一部改正ということについての連合審査が行われたわけでございますが、私はそこで取り上げたのは予防原則ということで、今日、何人かの参考人の方々も予防原則あるいは予防的な取組方法といいますか、そういった表現で話をされていたと思います。私は非常に、同僚の委員の方からも話がありましたように、極めてそういった面についての考え方をどう作り上げていくかということは極めて重要だと思っておりますので、引き続き、こういった面について私も関心を更に深めてやっていかなければいけないなと改めて深く決意したところなんですけれども。
 まず、第一点目の質問を岩槻参考人にお伺いしたいわけでありますけれども、余り聞き慣れない言葉ですけれども、ミトコンドリアの話が出てきて、細胞融合を行ってきたという、それで自然の進化がずっと続いてきていたと、遺伝子の交流が図られてきていると。自然の進化の中ではそれはそれでいいとは思いますけれども、ただ今回の技術におけるものについては極めて幅が広い、あるいはスピードアップが図られてくる、頻繁に行われる可能性が十分あり得ると。そういったことを考えてまいりますと、やはり科学的な知見をどう積み上げるかということも必要でありますけれども、その一方でどんどん不確実性が拡大していくということも考えられる。
 それで、先ほど鷲谷参考人から話がありました量と時間と淘汰圧の法則ということも考えてまいりますと、これは極めてそこと深くつながってくる話なんですけれども、いわゆるリスクの拡大が相当多くなってくるという、こういった面についてどのようにとらえていけばいいかということについてどういうふうに見解をお持ちかなと思っていますけれども。
○参考人(岩槻邦男君) 遺伝子組換えというようなことが生物界では元々普遍的なことだということを最初に申し上げたかったものですから、ミトコンドリアとか葉緑体とか、この場にふさわしくない単語を使ってしまいまして、申し訳ありません。
 問題は、そのときにも申し上げましたように、最近人為的に行われている遺伝子組換えのような技術を応用した育種というようなことは、基本的には同じことをやっているけれども人為的なものである。自然ということに対する反語は人為ですから、自然に対する反語的な行動が行われていることに対するリスクをどう評価していくかということなんだということを申し上げたかった、その話の筋の過程で出してしまったんですけれども。
 先ほどから参考人それぞれで皆さんおっしゃっていますように、問題は、そういうふうに最新の技術を使って、その最新の技術の中では科学的な知見に裏付けされている部分もありますけれども、それが現れてくる影響が十分読み取れないようなそういう部分もある。それをどうこれからチェックしていくかということだということは皆さんおっしゃるとおりで、それに対する姿勢が少しずつ違ってきているということなんですけれども。
 そのことは、正に冒頭にお願いしましたように、この案を作って、ごめんなさい、法律を作って規制するというのは、これは一方では非常に重要なことなんですけれども、同時にその法律でうたったことが十分担保されるようでないといけないということがあるわけで、特にこの場合、モニタリングをやり、それからリスク評価、管理をやるということの中で、何人かの人がおっしゃっているように、今、科学がまだ知っていないことが使われる必要があるということなんですよね。それに対してそれじゃということになりますと、やはり今知られていないことをどんどん明らかにしていく、これを促進する必要があるということだと思うんですけれども。
 鷲谷委員の最初の話で、最後のところ切れてしまっていますけれども、時間がなくて表題だけ読めというふうに終わっていましたけれども、そういうことが担保されることによって、例えばさっき加藤参考人がリスク評価にはもっと生態学者も加わるべきだとおっしゃったんですけれども、それに参加できるような研究者が十分対応できるだけのまだ知見を持っていないし、それから人的にも不十分だということなんですよね。
 こういうことを具体的な数字で申し上げた方が分かりやすいかと思うんですけれども、私、東大にいましたときには、東大植物園にいたんですけれども、植物が専門なんですけれども、東大植物園というのは日本を代表する植物の研究機関だとしばしば言われるんですけれども、研究スタッフが五人なんですよね。今でもそうなんですけれども、当時もそうでしたけれども。それに対して、例えばしばしば対比されるのがキューの植物園なんですけれども、イギリスのキューの王立植物園ですけれども、キューの植物園というのは博士級の研究者が百五十人いるんですよね。実は、日本の研究者というのはそういう勝負を常にやらせていただいているということなんです。今はもうちょっと数字が違いましたからあれですけれども、僕が在職しておりますときには植物園の当初予算はざっと四千万円で、その当時、イギリス、キューの園長が来たときに話をしますと二十億円ぐらいなんですよね、予算が。そういうので勝負をしているんです。
 だけれども、勝負をして、そうしたら負けているかという、我々、ちょっと弁解もしておかぬといけませんので、負けてはいないと思うんですけれども、それは例えば、私はしばらくの間、ICSUの下にあります国際植物園連合というのがあるんですけれども、その会長をやらせていただいていましたけれども、それはやはり日本の植物園がやっていることというのがそれなりに評価されているということなんですよね。竹やりで原子爆弾に向かっているようなものだと言いながら、それなりにいろんなことをやらせていただいている。
 だけれども、生物多様性というのは、正に多様なので、ひょっとすると億を超えるかもしれないような種を対象にする研究をやるわけですから、資質的に優れているというだけでは勝てない、やっぱり量的に対応しないといけないという部分があるんですけれども、それは十分担保されていないんですよね、今。
 ですから、こういう案を作って、こういう法律を作ってカルタヘナ議定書に対応するような準備を整えていただくというのは非常に重要なことだと思うんですけれども、それと同時に、それが担保できるような、そういう条件も整えていただくというのが実はこういうところで議論していただくことで非常に重要なことではないかというふうに私は思っているんですけれども。
○加藤修一君 ありがとうございます。
 それでは、天笠参考人にお聞きしたいと思います。
 遺伝子汚染事件の関係とか環境汚染の実態について報告をいただきまして、ああ、なるほどなと思って聞いておりましたけれども、グローバリゼーションの流れがかなり強くなっている中で、やはり輸出とか輸入とかそういったものが増大していくと、それから自由貿易も一層進展していくでありましょうから、そういった意味ではあっという間に拡散するという可能性はあるんではないかなと、そう思います。
 それで、今回いわゆる議定書の関係の話に多少なりますけれども、議定書には、締約国は科学的にははっきりしなくても潜在的な悪影響があると判断できると、予防原則的な記述を盛り込んだと、一方で貿易と環境に関する合意は相互補完的なものであることを認識すると、こんなふうに議定書の中にありますけれども、これは自由貿易の原則と議定書どちらを優先するかという話、相当論争的な件でないかなと思うんですけれども、これは穀物輸出国にとってはWTOで議論する下地ができたというふうにとらえているらしくて、一方でEUなどは予防原則が認められたというふうに考えているようなんですけれども、この辺はどういうふうに天笠参考人、これは極めて重要な点だと思うんですよね。この辺についてどのような見解をお持ちでしょうか。
○参考人(天笠啓祐君) まず、先ほど話しました遺伝子汚染なり環境汚染の問題というのは、正におっしゃられたようにグローバリゼーションというのが一つの原因としてあると思います。ですから、自由貿易が進めば進むほど、こういう環境問題に対する負荷といいますか影響というのは広がっていくと思います。
 ですから、より慎重であるべきであろうという予防原則の立場からいいますと、貿易の際にどれだけチェックできるかというのがポイントになると思うんですけれども、現在、日本は穀物輸入国であります。そのときにどのぐらいチェックがされているかというのが一つ重要なポイントになると思います。例えば、鹿島港ですとかああいう穀物が入ってくる港でどれだけの検査体制があるかということなんです。これは本当にお粗末な限りでありまして、私は、スターリンク事件が起きたときに農水省の役人に対して、農水省に対してどのぐらいチェック体制があるか、遺伝子組換え作物に対して、当時は全くありませんでした。その後、チェック体制を作るということを言っているんですけれども、実際問題としてそういうチェック体制をする技術者がいない、これから技術者を養うという段階なんですよ。そういうレベルで対応しようとしているわけですね。
 ですから、重要なのは、自由貿易とか穀物輸出というそういう問題以前の問題として、日本の国でどれだけそういう遺伝子汚染なり環境汚染を防げる仕組みがあるか、これが全くお粗末極まりないというところが現実なんです、実は。ですから、そこが、前提条件が欠けていて何ができるかという問題がやはり私は重要だと思っております。
○加藤修一君 ありがとうございます。
 それでは、加藤順子参考人にお伺いしたいんですけれども、リスクの評価の関係で、OECDでやっているケースについていろいろと引かれて、やはり使用に伴うリスク、今回のケースについては特に幅広い、ただし一つ一つ具体的に調べる必要があるんではなかろうかと、こういうふうに発言されておりますが、そして新しい知見が出てきたときにはそれを機敏に取り入れてやっていくといういわゆる柔軟なシステムが必要であるというふうにおっしゃっておりました。
 リスク分析の中でこういったことが当然必要だと思いますけれども、予防原則、この予防原則の中身をどう考えるかというのが極めて重要だと思いますけれども、確かにアジェンダ21の関係、第十五原則の関係ですか、そういった面における中身というのは、プレコーショナルアプローチであってプリンシプルではないというふうにEU辺りは考えているみたいなんですけれども、いずれにしても予防原則、EUが言っているような予防原則に私は是非していくべきだなと、それを一つの社会のシステムとして定着させていくことが極めて重要な時代になってきているんではないかなと、そう思います。
 それで、柔軟なシステムと、この予防原則とかあるいは予防的取組方法という、これはアプローチについてこういうふうに日本政府は決めているらしいんですけれども、予防的取組方法という訳を統一的に使いましょうということで決めているらしいんですけれども、柔軟なシステムを作る必要があるという場合、この予防的な原則という、例えばEUにおいてもあるいはカナダにおいても、この適用については極めてきちっとした形で作り上げていると。カナダにおいては、予防原則適用に関する十一の指針ということで、例えば立証責任、状況に応じてしかるべきところに課すとか、あるいは再評価と更なる協議の仕組みがあること、というのは、いったん評価したけれどもまた新しい知見があったときには再評価をすべきだという、先ほど参考人がおっしゃっていたことと同じことだと思いますけれども。
 また、さらに、透明性とか責任能力とか住民参加原則の度合いがより大きいものであるというふうに考えるべきであるとか、そういったことを含めて十一の指針というのを作り上げて、一つのシステムを提示して、それをガイドライン的に考えていきましょうという話になっているわけなんですけれども、やはり私は、日本も、予防原則であるにしても、あるいは今政府が言っている予防的取組方法であるにしても、そういう具体的な中身を持つようなシステム、ガイドライン、そういったものを是非作るべきじゃなかろうかと、こんなふうに思っているんですけれども、その辺については、もし所見があれば教えていただきたいと思います。
○参考人(加藤順子君) 予防的アプローチ、予防的取組方法というのをどれくらいの、その予防の幅をどれくらいにするかというところが多分いろいろな国で違ってきて、それがいろんな意見対立を生んだりしていることかと思います。
 今回のこの法律について私が一番うれしかったことというのは、今まで各お役所が独自にやっていまして横の連携というのは非常に少なかったように思うんですけれども、今回は共同で提出されていると、そういうことが大変私ははたから見ていてうれしいことでした。そういう意味で、各省庁が今度は、先ほどどなたかがおっしゃっていらっしゃいましたけれども、法律の枠組みの下に作るものは各所管、主務大臣ですか、が作っていくということになっているわけですけれども、そのときに、今度、やはりこの法律を作るときと同じように、原則としてこういうふうにしましょうというようなことを各省庁で協議をされてフレームが作られるといいなというふうに思っております。その中に、予防的取組方法に関しても、お役所の共通認識としての枠というのが作られると好ましいというふうに私は思います。
○加藤修一君 ありがとうございます。
 それでは最後に、鷲谷参考人にお願いしたいと思います。
 これも予防原則にかかわってくる話でございます。三ページ目に「予防的な取り組みを重視」するというそういった文言がございますけれども、保全生態学、いわゆる生物多様性の保全、生態系管理のための生態学の研究分野であるというふうにおっしゃっているわけなんですけれども、そういう研究分野では、とりわけ生物多様性の保全という観点についてですけれども、予防的な取組を重視するということについてはどういう議論といいますか、今まであるんでしょうか。その辺について教えていただきたいと思います。
○参考人(鷲谷いづみ君) 生物多様性にかかわることは、変化してしまうと不可逆的なことも少なくないんですね。そういうことがありますので、先ほどどのぐらいの科学的な確からしさから予防的な取組を始めるかということなんですけれども、そのレベルはかなり低いといいますか、科学的に多少疑われるんだったら慎重に取り組みたいというのが恐らく保全生態学の立場になると思います。
 もちろん、科学的根拠も何もないのにそれを止めるようなことは予防的な取組の中には含まれないんだと思うんですけれども、確たる証拠ではなくても、今まで起こったいろんなこと、あるいは生態学や生物学の常識を組み合わせると予測できるようなこと、そういうリスクがあるんだったらなるべくやめておく、あるいはもし何か起こって、不可逆的にならないようにできる、つまり生物が環境に出てしまったのを回収することがやりやすいとか、そういうことがあるんだったらちょっと柔軟に使ってもいいかもしれないけれども、それが保証されていないときはかなり安全側で判断をしていくというようなことが必要なんじゃないかと思います。
 それは、確率が低くても、起こってしまった場合に影響が甚大で不可逆的でありそうな事象については、そういう判断という、持続可能性ということで、後の世代に負担を掛けないということからはもしかすると重要な態度なのではないかというふうに思っております。
○委員長(海野徹君) 時間が来ております。
○加藤修一君 ありがとうございます。頭の中がだんだん不確実性が拡大してくるような感じがするんですけれども、非常に難しいテーマだなという認識を改めて思いました。
 ありがとうございます。
○岩佐恵美君 本日は参考人の皆様には大変朝早くから御出席をいただきまして、それで貴重な御意見いただき、ありがとうございました。
 私からは、ちょっと具体的な点について幾つかお伺いをしたいと思います。
 まず天笠参考人にお伺いしたいのですが、遺伝子組換え食品の問題について、市民の立場からずっと取り組んでこられました。私も何回か市民と議員の会に出席をさせていただいて、御一緒させていただいたことがあるんですけれども、スターリンク事件、先ほどから言われておりますけれども、この問題について市民団体の皆さんが頑張られたからこれだけ大きな問題になったと思うんですけれども、やっぱり私は現場で伺っていて政府の対応というのは非常によくなかったというふうに思っているんですけれども、その点の具体的なことについてお話をいただきたいと思います。
○参考人(天笠啓祐君) まず、先ほどスターリンク事件について少しお話ししましたけれども、二〇〇〇年五月に家畜の飼料からスターリンクを検出しました。これは市民団体が検出したものですけれども、その調査結果を農水省に持っていきまして、それで農水省に対して、スターリンク、日本で承認されていない遺伝子組換え作物が入っているよということを言ったわけです。
 それに対して農水省は何と答えたかといいますと、アメリカが日本に輸出していないと言っているから日本に入ってきているわけがないというのが回答でした。ですから、私たちは、サンプルを提供するから、このサンプルを分析してほしいということを言いました。これは、飼料というのはどういう飼料かといいますと、普通のスーパーなどで売られているウサギのえさですとか鶏のえさなどであります。通常のスーパーで売っている飼料から検出されたわけであります。ところが、このサンプルを持っていって分析してほしいと言ったところ、それは拒否されました。ですから、農水省は、そのときに、スターリンクは日本に入ってきているわけがないというのが一つの立場でありました。
 次に、食品からスターリンクが検出されました。これに対しても、厚生労働省の方に対して私たちは、家畜の飼料から検出されている以上は食品からも検出されているに違いないということを厚生労働省の方にあらかじめ言ったわけです。ですから、早急に検査、分析してほしいということを言ったわけです。しかしながら、厚生労働省の方もやはりそれは分析はしませんでした。結局、私たちが分析して、スターリンクが出て、検出されたわけであります。そこからスターリンク事件というのが大きく始まっていくわけですけれども。
 その後、厚生労働省、農水省の方で独自の分析というのが行われました。その結果が発表されました。それによりますと、農水省の発表では、日本に入ってくる飼料でありますけれども、トウモロコシでありますけれども、それを抜取り検査いたしました。そうしたところ、十五検体のうち十検体からスターリンクが検出されました。いわゆる六六・七%に及ぶ検出率だったわけであります。
 これはなぜかといいますと、それだけ、スターリンク自体はアメリカの中で全トウモロコシ畑の四%しか作付けされていない、にもかかわらず十五検体のうち十検体から検出されたということは、それだけ花粉による汚染が広がっているということを示すわけであります。ですから、そういう問題というのが、このスターリンク事件というのはそれだけ根の深い問題でありまして、それを早急に手を打たなければいけない農水省、厚生省が実は後手後手を踏んでいたという、そういう経緯があります。
○岩佐恵美君 私は、今の問題というのはこれからどう対応するかということと関連するので、きっちりと問題をとらえておかなければいけないというふうに思いましたので、あえてお話しをいただきました。
 それで、今、遺伝子組換え食品の世界的な生産状況と、それから日本の輸入の実態について天笠参考人からお話しを、概略をお話しをいただきたいと思います。
○参考人(天笠啓祐君) 現在、遺伝子組換え作物、これはISAAAという国際アグリバイオ技術事業団というところが毎年発表しておりますけれども、それによりますと、二〇〇二年の作付面積が五千八百七十万ヘクタールということで、これは日本の国土が三千七百八十万ヘクタールでありますから、それの一・五倍近い作付面積ということになります。
   〔委員長退席、理事小川勝也君着席〕
 圧倒的に大豆が作付けされているわけでありますけれども、日本に入ってくる作物、これから考えますと、例えばトウモロコシの場合、アメリカから、先ほどお話がありましたけれども、二〇〇一年の場合、トウモロコシですけれども八七・六%入ってきております。そのアメリカでの作付け割合が三四%であります、遺伝子組換えの割合が。それから、大豆の場合は、アメリカから七五・五%日本は輸入しているわけですけれども、そのうち大豆のアメリカでの遺伝子組換えの割合は七五%であります。それから、菜種はカナダから八一・一%輸入されておりますけれども、カナダでの作付け割合が六四%であります。それから、綿でありますけれども、日本はオーストラリアから九六%入ってきておりますけれども、これは食べ物でありますけれども、そのうち遺伝子組換えの割合は四二%であります。
 これは、作付け割合は二〇〇二年のデータでありまして、オーストラリアの場合だけ二〇〇一年のデータでありますけれども、ここから割り出しまして、日本に入ってくる、私たちの食卓に出回っている割合というのを算出いたしました。
 これは自給率との兼ね合いが入ってきます。自給率がこの中で一番高いのが大豆で五・二%、一番高くても五・二%という非常に悲惨な割合であります。そうしますと、トウモロコシが二九・八%、ですから私たちの食卓に入ってくるトウモロコシの三分の一がもう遺伝子組換えになっております。それから、大豆は五三・七%、半分を超えております。それから、菜種は五一・九%、やはりこれも半分を超えております。それから、綿でありますけれども、これが四〇・三%、約四割ということでありまして、本当に高い割合で私たちの食卓に入ってきているんですけれども。
 ところが、私がいろんなところで、消費者のところでお話しして聞くんですけれども、だれも遺伝子組換え食品を食べているという実感がないんです。これはどうしてかというと、表示がないからなんです。表示がある、たまたま表示がある豆腐とか納豆を見ますと、遺伝子組換えでないとしか書いていない。ですから、みんな遺伝子組換え食品を食べていないと思っているんですね。ところが、実はこんなに高い割合で遺伝子組換え食品というのは日本の食卓に入っているんですよという実態があります。
○岩佐恵美君 先ほど岩槻参考人から、アメリカのカルタヘナ議定書のみならず、生物多様性についてもこれは条約に参加していないという、そういうお話があって、それは知的所有権との関係だというお話がありましたけれども、私たち非常に気になっているのは、やっぱり今、遺伝子組換え技術というのは、企業がやっぱりどれだけ、特に食品については利益をその技術によって得るかということで一生懸命やっているわけですね。
   〔理事小川勝也君退席、委員長着席〕
 私は遺伝子組換え技術そのものを全く否定する気はないんです。研究というのは大事ですし、それからごく限定された、先ほどお話がありましたけれども、医薬品とか必要な分野ではあるのかもしれないと思っているんですけれども、開放的に出ていく場合は、先ほどからお話がありますように、不可逆的な影響というのが出るわけですので、やっぱり情報というのが非常に重要だと思うんですね。
 例えば、いろんな申請をする際に情報公開ということを言うわけですけれども、じゃ影響評価まですべてのもう文書も情報公開すべきだという意見もありますし、私はもっともだというふうに思うんですが、そうした技術開発とこういう情報公開との関係について、岩槻参考人にどうお考えか、お伺いをしたいと思います。
○参考人(岩槻邦男君) 私ども科学をやっています者は、科学というのは元来成果が公表されないことには意味がないという、日ごろそういうところに住んでおりますので、この問題に関してもその情報公開というのは決定的に必要なものだというふうに理解しています。そういうことを担保するためにも、今のままでしたら野方図になっている部分があるんですけれども、例えばカルタヘナ議定書のようなものを作って、生物多様性がどうそれによって保全されていくかという方向で物事を考えていくべきだという、そういうふうに考えております。
○岩佐恵美君 加藤参考人の「欧米のGM農作物の規制の現状と課題」というのを読ませていただきました。この中で、先ほどからお話がありますけれども、米国とEUとの関係で、例えば予防原則については米国はない、EUについて言えば目的環境リスク評価の原則等に記載をしている。トレーサビリティーについて、アメリカはない、EUはトレーサビリティー確保に関する規定がある。表示義務も、アメリカは実質的に同等と判断できないときに表示をするのみで、大体みんな実質的に同等だということで表示なしという実態にあるわけですよね。EUは違いますよね。
 そういう中で、先ほど天笠参考人からお話がありましたように、日本の輸入農作物というのはアメリカから圧倒的に入ってくるわけですよね。そして、カルタヘナ議定書については、アメリカは参加する気がないという、そういう状況の中で、一体日本はどうしたらいいのかというふうにお考えでしょうか。
○参考人(加藤順子君) 私自身は表示はあった方がいいというふうに思っています。
 ただ、今、遺伝子組換えといいますと、それは危ないということの代名詞のように使われている。それが非常に実際には官公庁でちゃんと評価をしているわけですから、その評価でどういうふうな安全性を評価して、どういうふうに考えているということがもうちょっとしっかり説明されて伝わっていかないと、危ない危ないという目印としての遺伝子組換えという表示はやはり誤っているだろうと思います。
 ですから、そういう意味では表示はあった方がいいと思いますけれども、それと同時に、どういうふうに安全性を評価したのか、それからそれをどういうふうにというところを難しい言葉でなくて分かりやすくきちんと説明をしていくということがやはり非常に大事だろうというふうに思っています。その両方がないと、混乱を招くだろうというふうに考えています。
○岩佐恵美君 私は遺伝子組換え技術については、先ほど申し上げましたように、研究そのもの、あるいは限定的な使用ということについて否定するものではないんですけれども、先ほど天笠参考人が言われたように刃物みたいなもので、もろ刃のやいばという点がある。特に、技術は開発してどんどん使っていって、それが広がってしまった場合に収束がつかないし、どう収束させるかというそこまできちっと考えていないとこれは大変なことになるんじゃないかと、こう私自身、皆さんに伺う前に思っていて、この実用化というのは非常に不安だと、特に今この技術はモンサントという会社がかなり独占的にやっているという実態の中でどうなのかななんというふうに思っているんですが、今日、鷲谷参考人のお話の中で、レジュメの三ページ目の二つの不確実要素と必要な対処というのを読ませていただいて、なるほどと思ったんですね。ここのところは本当に大事だというふうに思いましたけれども、何か御意見、付け加えてあれば。
○参考人(鷲谷いづみ君) 法律の中では、恐らくこういうことも保障されるような枠組みは用意されているのかなというふうに思います。
 先ほど来、運用をということをお話ししているんですけれども、不確実性に対処できるということを確実に担保できるような運用の仕方を考えていただければと思います。
○岩佐恵美君 終わります。
○高橋紀世子君 私もスターリンク事件のことをちょっと伺いたいんですけれども、やはりこのことは日本が問題があるといって水産省に提示したのに、それをはっきりしなかった。私は、日本はほとんど輸入食品で暮らしています。だから、こういうことはすごく大事なことだと思いますので、お役所がはっきりしないでうやむやにするようなことは大変おかしいことだと思うんですけれども、先ほど天笠さんから伺いましたけれども、もう一度お話を聞きたいと思います。
○参考人(天笠啓祐君) スターリンク事件なんですけれども、元々から非常に安全性に問題があるということ、だから問題になったトウモロコシなんですね。
 未承認作物自体に関しても、やはり日本にはたくさん入ってきております。例えば、日本でまだ認められていないパパイヤでありますけれども、これも何度も日本で検出されております。重要なのは、そういう日本で認められていない作物が日本に入ってきたときにどういうふうにチェックできるかという仕組み作りだと思うんです。それが全然行われない状態で、そういう仕組みができる前に輸入が認められてしまった、ですからこういうスターリンク事件が起きたんだと思います。
 そのときに、例えばそういう仕組みがないときに、チェックする仕組みがない、今度の生物多様性条約で一番重要なのはそこだと思っているんですけれども、スタートする以上はやっぱりチェックする仕組みができてなくちゃいけない。それがなかったためにこのスターリンク事件が起きたわけなんですけれども。
 このスターリンク事件の場合、私たちが検査したときに偶然に検出されたんです、実は。これは、実は日本ではスターリンク、日本で検査会社でスターリンクを検出する能力を持っているところって実は当時はありませんでした。そのため、私たちはずっと依頼している検査会社は実はアメリカの検査会社なんです。そのため、アメリカの検査会社だったものですからスターリンクの検出ができたんですけれども、それで私たちは逆にびっくりしたわけですね。まさか私たちも入っているとは思わなかったわけです。
 ですから、そこでびっくりして、農水省に対してこれ入っているよということを言ったわけです。それに対して農水省が、それで公開質問状のような形で、スターリンクが検出されましたけれども、これについてどう考えますかというような形で出したわけです。それに対する公式の回答が、アメリカで日本にスターリンクを輸出しないと言っているから、ですから日本にスターリンクは入っているわけがないというのが公式回答だったんです。それは今でも大事に取ってありますけれども、そういう回答だったわけであります。
 それで、実はそのときに、私たちは農水省の人と話するときにサンプルを持っていったわけですね、ここに入っていましたと。ですから、私たちは検査するときに必ず、検査会社に出すサンプルと保存サンプルと二つ、いわゆる分けておきます。その保存サンプルの方を持っていきまして、それで、これここの中に入っていましたよということで、農水省に対して、これ検査してくださいということを言ったわけですね。ところが、それは検査しませんというのが回答だったわけです。
 これはなぜ検査しないかということなんですけれども、私たちには理解できなかったわけです。実際に入っているわけですから、これを検査すれば出てくることは確実なわけです。ですから、それを検査しますと逆にそれ、スターリンクは日本に入っているという実態が逆に明らかになってしまうので検査しなかったとしか思えないわけです。
 そのときに、同時に私たちは厚生労働省に対して、家畜の飼料として入っている以上は食品にも入っていますよということを伝えたわけです。ですから、食品の検査をしてくださいということを言ったわけですね。ところが、それを行わなかったわけです。そして、アメリカで食品から検出されまして、大きな問題になってしまったわけです。これは九月だったんですけれども。
 それで、私たちも、それじゃ日本でもやっぱり食品に入っているに違いないということで食品の検査をしてみたんです。そうしたところ、やっぱり入っていたわけです。それで、それを厚生省に持っていったわけですけれども、それで厚生労働省は初めてそのときにスターリンクの存在、日本に入ってきているという存在をやっぱり認めざるを得なかったんです。
 ですから、言ってみますと、農水省も厚生労働省も、この市民団体が検査しなければ検査していませんでしたし、それを認めようともしなかったという実態があるわけです。
 その後、アメリカで今度は種子汚染が起きたわけです。トウモロコシの種子がスターリンクに汚染されていますよという、これがアメリカで発表されたわけです。これはアメリカの農務省が発表いたしました。そのため、私たちも、やっぱりそれじゃ種子も汚染されている可能性が高いと判断したわけですね。それで、種子の検査というのを行って、いろいろな団体が行っておりますけれども、ある市民団体が種子の検査を行ったところ、その種子からもスターリンクが実は検出されたわけです。それによって、もちろん遺伝子組換え作物の種子もたくさん検出されております。
 ということはどういうことかというと、日本で販売され、作って販売されているトウモロコシの中に遺伝子組換えではないという、日本では遺伝子組換え作物は作付けされていないことになっているんですけれども、実はもう既に作付けされているんです。種子として随分入ってきているわけです。しかも、その中にスターリンクも入っていたという実態があります。これもやはり市民団体が初めて検査して明らかになったものなんです。
 それに対してようやく農水省が後で認めるという仕組みになってきておりまして、ですからそういう意味では後手後手なんですね、行政自体が。それが、こういう生物多様性のように、予防原則といって事前に防ぐことを検討しているところでこういう後手後手の対策しかできないような行政では私たちは心もとないと、そういうことなんであります。
○高橋紀世子君 随分恐ろしいことを伺ってあれしましたけれども、私、やはり、外国から食品を輸入する量が七〇%、大変多いので、やはり調べ方があいまいであると、本当に食べ物のことですから危険だと思うんです。
 これはちょっと、輸入するあれが、食べ物が七割もあるということについてどう思うか、ちょっと伺いたいと思います。
○参考人(岩槻邦男君) 私も農村の出身ですから、その意味ではそういう状態でない方が好ましいと思いますけれども、好ましくないからといってどうしたらいいかと言われると、全然策は残念ながらございませんですよね。
 ですから、今こういうことが起こっているときに、だからカルタヘナ議定書のようなものを作って、生物多様性を保全するという方向での検討が必要だというふうに考えております。
○参考人(天笠啓祐君) ヨーロッパがやはりアメリカからの食料を守るということでいろいろなことをやっていると思うんですけれども、例えば遺伝子組換えで作られました牛に注射します成長ホルモン剤、これをストップさせております。その結果、アメリカ産の牛肉がヨーロッパには入らないという状況ができております。これは国民の健康をやっぱり優先するという考え方であります。
 ですから、今度の遺伝子組換え食品の表示制度もトレーサビリティーとセットになっておりますけれども、非常に厳しい表示制度です。これを実践いたしますと、事実上アメリカからの食料輸入というのが難しくなると思います。アメリカが遺伝子組換え作物の作付面積を増やし続けていますので、非常に難しくなると思います。
 ですから、私たちが食糧自給率が低い低いと言うんではなくて、実際に具体的に自然をどう守るのか、環境をどう守るのか、国民の健康をどう守るのかと、その政策を優先すれば必然的に食料輸入は減っていくと思います。ですから、そういう具体的な政策がやっぱり優先されるべきだろうと思っております。
○参考人(加藤順子君) 私は、その分野は全く存じません、よく分かりませんで、自給率が低いということは好ましいことではないというふうには認識しておりますけれども、それを高めるためにどうしたらいいかとか、あるいはそれじゃそれに対してどういうふうな手があるかというふうなことについては、ちょっと私、現在意見を持っておりませんので、控えさせていただきます。
○参考人(鷲谷いづみ君) 生態学だけの立場から考えてみますと、日本列島のように温暖で水にも恵まれているところで食糧の自給率がこんなに低いというのは生態学的には非常に異常なことだと思います。それは経済とか貿易ということから規定されて今みたいな現状が生まれていると思うんですけれども、遺伝子組換えだけではなくて、生物多様性保全上様々な問題がそのことから生じているようにも思います。外来種も大量に北アメリカから入ってきているんですけれども、穀物輸入に伴って入ってくるものも少なくありません。
 それから、農業がだんだん衰退していくことに伴って、人の営みの場でありながら生物多様性が豊かだった日本の農業生態系というものがだんだん貧しいものになっていくという問題もあります。それから逆に、輸出している国も乾燥地帯などで環境にはやや無理をしながらかんがいを一生懸命したりして生産を上げているわけですから、地球全体の環境の視点から考えると、日本の食糧の自給率を上げるということはとても、日本にとってだけでなくて、国際的にも重要なことだと考えます。
 そのことを実現していくためには、恐らく国際ガバナンスの中での自由貿易と環境と今せめぎ合いというのがあるんだと思うんですけれども、それを少し環境の方に傾けないとどうにもならないことかと思うんですが、日本はこれから環境を大切にする国になるということですので、そういう中でも日本が果たす役割というのは大きいんではないかと思っております。
○高橋紀世子君 私、やはり自給率はもう少し高くするように皆さんで努力していかなければならないと思います。また、生態系のことなんですけれども、やはりそれに対する配慮が大変必要だと思います。
 今日はありがとうございました。
○委員長(海野徹君) 以上で参考人に対する質疑は終わりました。
 参考人の皆様に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は長時間にわたり貴重な御意見をいただきまして誠にありがとうございました。委員会を代表しまして厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
 次回は来る二十二日午前十時から開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時三十三分散会