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軽井沢におけるニホンザル全頭駆除計画への再度の質問

2005年2月22日(火)

長野県知事 田中康夫 様

軽井沢におけるニホンザル全頭駆除計画への再度の質問

野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク


 1月18日付けのご回答ありがとうございました。残念ながら、いただいた回答の内容に不明な点が多々あり、その後、当ネットワークではこの2月12日、軽井沢の現地視察及び地元住民の方々との意見交換会等を行いました。その結果、私どもは今回の貴県の回答は事実に合致しておらず、鳥獣保護法が明記している科学的計画的な保護管理計画制度と照らし合わせても極めて根拠に乏しいと結論せざるを得なくなりました。そこで、以下の点について再度ご回答をお願いする次第です。 なお、回答期限は3月15日までにお願いいたします。


1.国との協議

(1)追い払い実績について
【ご回答】 「追い払いを中心に対策を実施してきたが、追い払っても逃げずに威嚇するサルがいるため、30頭の捕獲許可を環境省から得た」

【再質問】 地元NPOの報告(報告書P11)によると、県からは生息調査の依頼を受けているが、追い払いはNPOの独自の判断で実施してきたとのことです。しかも町においては、追い払いの行政としての実績はないようです。追い払い実績をお示しください。
また、地元の方々の観察情報では、人に威嚇をするような個体が30頭もいることはありえないとのことですので、30頭という数字の科学的根拠はどこにあるのか、お知らせ下さい。

(2)被害報告について
【ご回答】 「被害状況等の報告資料を町で整備」

【再質問】 地元の住民の方々(軽井沢これで?いいん会)からの聞き取りでは、被害情報( 約200件)の中には、目撃情報も含めたサルに関する雑多な情報も含まれており、正確な被害実態を反映しているかどうか不明です。被害状況の正確な報告資料を明らかにしてください。

(3)捕獲頭数の根拠について
【ご回答】 「町ではすでに30頭の捕獲許可を環境省から得、これに20を追加して今年度で50頭の捕獲を予定」

【再質問】 新たに20頭を追加申請した根拠は何でしょうか。この数字は町からの要望なのか県が独自に(調査もせずに)国に申請した数字なのかご確認下さい。
 また、この捕獲は、特定計画に基づいているのであればどのような科学的根拠で行うのか、また、特定計画から外して有害捕獲をするのであれば、科学的計画的制度から外す理由をお聞かせください。
 加えて、国の鳥獣保護区での捕獲であることから、環境省に具体的な保護管理手法について指導・アドバイスを求めているのかどうかもご確認ください。また、その担当部署や指導内容についてもお聞かせください。

2.サルの保護管理

(1)住民への周知について
【ご回答】 町民に情報提供、電気策設置の指導や普及、餌やり禁止の立て看板設置、チラシ配りによる啓発活動を実施」

【再質問】 地元住民の方々によれば、町民への情報提供といっても、町の広報のごく一部に記載したお知らせと数ヶ所に設置した立て看板のみであり、チラシ配りは行われていない等、町民に周知されていると言えないとのことですが、詳細な内容、回数等をお示しください。

(2)加害個体の識別について
【ご回答】 「人身に危害を加える可能性が高い個体を優先しながら捕獲を実施」

【再質問】 群れの個体識別がまったく行われていないのですから、加害個体の識別もましてその捕獲も不可能ではないでしょうか。結局は、やみくもに捕獲しているように見受けられますが、そうでないとすれば、どのようにして実施しているのが具体的にその方法をお示しください。

(3)被害実態について
【ご回答】 「人家に侵入する等の被害があとを絶たないほか、人に向かって威嚇するニホンザルも出るなど、現状のままでは人身被害の危険性が高い状況」

【再質問】 玄関やガラス戸をあけて人家に侵入するという被害は、人馴れのすすんだ被害地では頻繁に報告されていますが、これらは簡単な対策(鍵をかける)で比較的容易に防ぐことが可能です。−(1)と重複一時的な滞在者である別荘住民への情報提供と住民への被害防止対策の普及をまず優先させるべきではないでしょうか。

(4)意思決定の仕組みについて
【ご回答】 「地域の代表者である区長、農業団体、地元NPOそして鳥獣保護員等が構成員である対策協議会を諮り、合意を得た上で実施」

【再質問】 特定鳥獣保護管理計画(ニホンザル)において、県は地域鳥獣保護管理協議会を開催して、個体数調整、被害防除などの対策を検討することになっています。ところが、今回は、全頭の捕獲が協議され、決定された場は軽井沢町の関係者のみによって構成された協議会-のみと伺っております。なぜ県主催の地域鳥獣保護管理協議会を開催しなかったのでしょうか。また、なぜ町主催の協議会によって全群捕獲を決めたのか、理由を説明してください。もし、町主催の協議会の決定を根拠にしているのであれば、協議会において、科学的な議論がなされたのかどうかを検証するため、議事録を公開してください。

3.駆除の根拠

【ご回答】 「市街地からその外側の別荘地への追い払い等一定の効果があったが、年間を通じて実施されていない。試験期間以外は職員が対応したが対応しきれず猟友会へ委託」

【再質問】 前述のように、追い払いは町の委託ではなくNPOによる自発的な行為であり、しかも効果があったにもかかわらず、町がNPOへの委託を打ち切っています。なぜ引き続き地元NPOにその継続を依頼しなかったのか、理由を確認してください。
 ちなみに被害対策はサルの生息、生態調査に基づいたものでなければならず、追い払いと称して追い散らしてしまうのでは、群れを分散させるだけです。科学的調査に基づく根拠もなく追い払いや射殺をしても労力と費用の無駄使いであることは、これまで全国各地の例で指摘されているところです。

4.捕獲方法

(1)捕獲の条件について
【ご回答】「ニホンザルの捕獲は、銃器および小型檻で実施」

【再質問】有害捕獲の 許可に当たって、国の指針は、期間の限定、区域の限定、捕獲の方法の限定、鳥獣の種類及び数の限定のほか、捕獲物の処理の方法、捕獲等又は採取等を行う区域における安全の確保・静穏の保持、捕獲を行う際の周辺環境への配慮、猟具への標識の装着などについて付すことを定めています。捕獲許可に関わる書類一式をご提示いただきたい。

(2)銃器の使用について
【再質問】 捕獲には散弾銃を(も?)使用して駆除するとのことですが、個体識別もなされていない状態で無差別的な銃殺は、かえって群れの分散を招き、対処をいっそう困難にするということは、各地の事例で報告されている通りです。また地元で使用されている散弾銃では、瞬時に特定の個体だけ狙って銃殺することは不可能であり、地元民への危険や手負いのサルを作り出す可能性もあり、加害性の強い個体を捕獲するという目的にはそぐわないものです。なぜ、銃器を許可したのか、ご見解をお聞かせいただきたい。

(3)住民の安全対策について
【再質問】 事前に地域住民に対して、銃器を使う地域、時間帯、駆除隊の編成等について広報して周知徹底しているかどうかご確認いただきたい。地元の方々の情報では、ベランダに来たサルが目の前で射殺されたのを見た人がいるとのことですが、人家近くでの発砲は、それ自体違法の可能性があります。地域住民の安全性の確保等のために、行政職員等が捕獲の現場に立ち会いを行っているかどうかもあわせてご確認いただきたい。

(4)死体の処理について
【再質問】 銃殺したサルの死体は埋却するとのことですが、土が凍っている冬季でどのように処分しているのかご確認いただきたい。また小型檻で捕獲した場合は、どのような方法で殺処分しているのかも合わせてご確認いただきたい。

(5)捕獲個体の情報収集について
【再質問】 捕獲データは、今後の保護管理対策上の重要な情報です。ましてこれが特定計画に基づいているものであれば、捕獲の場所、捕獲数、処置の概要、加えて捕獲地点、日時、性別、捕獲物又は採取物の処理等についての更に詳細な報告を、写真又はサンプルを添付させる等により行うべきですが、これを実施するように求めているか、ご確認下さい。また、そのデータを明らかにしてください。

(6)捕獲の実施期間について
【再質問】 有害鳥獣捕獲の期間は、原則として被害等が生じている時期のうち、最も効果的に有害鳥獣捕獲が実施できる時期と期間とされています。冬季であっても別荘の住民や観光客が訪れることを考えると、安全対策上の観点からも、捕獲許可期間、捕獲された正確な位置などをご提示ください。

5.被害防除対策

(1)被害防除対策の実施について
【ご回答】 「電気策設置の指導や普及、餌やり禁止、農作物の全量収穫、廃棄農作物の適正な処理などの啓発活動、追い払いは、今後も継続して実施」

【再質問】 実際に現地で見たところでは、電気柵の設置方法もー適切ではなく、効果に乏しいように見受けられました。町は地元NPOに調査を依頼し、その報告書にはさまざまな防除対策が提案されています。これらの提案がきちんと検討され試行た上で、他の手法では不可能であるという結論に基づきあえて全頭捕獲に踏み切ったというその根拠がーまったく見つかりませんが、どのように被害対策を検討してきたが、それぞれの提案に対する県の見解をうかがいたい。

(2)モニタリングについて
【ご回答】「2年間かけて全頭捕獲。今年半数を捕獲した後、群れの状況等を把握」

【再質問】 再度の確認ですが、今回の全頭駆除計画は、県の特定計画に基づくものか、被害に基づく有害捕獲なのかを再確認していただきたい。また、今年度で半数を捕獲して群れの状況を把握するとは、特定計画に基づくモニタリングの実施なのか、それとも単に様子見なのか、誰がどのように実行する予定であるかもご確認いただきたい。

(3)人と野生ザルとの共存について
【ご回答】 「市街地・別荘地に住み着くというきわめて特異なニホンザルの群れによる被害対処のためやむを得ず全頭捕獲」

【再質問】 現地で見た限りでは、軽井沢のサルは、観光地で餌付けされたサルのように積極的に人にかかわったり、人に危害を加えるような危険性はないように見受けられました。そもそも森や林の中に住宅を建ててしまったからには、ある意味野生生物がそこにいるのは当たり前であり、人と動物が互いに過剰に干渉せず、隣人として共存していく方法を探ることこそが必要ではないかと考えられます。
 国際観光地である軽井沢では、そこに野生のサルが生息していることは魅力を高めこそすれ、これを邪魔だからと市街地付近で銃器を使用し、全頭駆除したということが知れ渡れば、国内外でイメージダウンになり、行政のみならず住民にとってもマイナスであると考えられます。県としてのご見解をお聞かせください。

最後に、1月18日のご回答にもありましたように「あくまでも人とサルの共存を基本に捉え」、冷静で科学的な判断のもと、今回の間違った決断を早急に撤回されることを心から願っております。

以上