与党の自然再生推進法案について、渡良瀬の現場から見た意見

○自然再生推進法案の成立によって生じることが懸念される点

 渡良瀬遊水池では、国土交通省利根川上流工事事務所によって、遊水池の自然再生・保全を目的とした「検討委員会」およびその関連組織である「連絡会」が設置されている。これらの動きは検討会の趣意説明にもあるとおり、「自然再生推進法」を先取りしたものである。

 私たち地元のNGOやNPOは実際にこれらの「検討委員会」「連絡会」に参加をした経験をとおして、今回の自然再生推進法について懸念を抱かざるを得ない点が何点かある。 

T.渡良瀬遊水池湿地保全再生検討委員会(自然再生推進法案の協議会に相当)の問題点

1.検討委員会は形の上ではNGO・NPOの委員の参加をとっているが、これまでNGOやNPOが行政と連携を持ちつつ行ってきた取組を全く無視した再生事業案を行政側が提案してきた。

検討委員会で無視されたNPOの取り組み・例

@NPOが提案した上流下流の連携による再生事業の展開

  (遊水池のヨシを活用した足尾の緑化事業)

 A地場産業であるヨシズ業の振興と一体化した遊水池の保全再生案

 B遊水池周辺の学校との連携による遊水池再生に向けたビオトープづくりや大学とも連携した研究事業

 これらの取組は工事事務所の管轄外ということで取り上げようとしない。従来の行政の縦割り区分に無理矢理NPOの活動を押し込めようとしているようにとれる。このようにNPOの創意工夫や独自のアイデアを生かせなくなってしまう恐れがある。

2.十分な検討もなく、いきなり自然再生事業地区の選定を行う。

 同検討委員会は第1回が今年6月12日に行われたが、ここで工事事務所から同事業の趣旨説明があり、次回(2回目秋予定)には再生事業地区の選定を行うとしている。しかも、この検討委員会は3回しか実施されない。調査に基づく解析や評価を行わずに、いきなり再生事業地区を選定するという姿勢の背景には、遊水池周辺の市町からの要望がある。このように、自然再生事業が自然環境や生物多様性の保全という本来の目的から外れて実施されようとしている。

U.「渡良瀬遊水池自然保全利用連絡会」(自然再生推進法案の実施者による連絡会に相当)の問題点

 今年1月22日に利根川上流工事事務所の呼びかけによって設立した連絡会で、周辺市町と各教育委員会、ヨシ組合、自治会、市民団体、NPOで構成されている。

 ここでは、連絡会によってNPOがこれまで市町や学校、ヨシズ業者などと独自に連携して行ってきた湿地保全再生事業「わたらせ未来プロジェクト」(特に環境学習)が、他の組織との横並びを要求された結果、これまでにすでに実績のあるNPO事業の展開が阻害されているという実態がある。

1.NPOが周辺の小学校や大学と連携して行ってきた湿地再生事業(ビオトープによる埋土種子発芽実験)などが、連絡会以降は行政が設立した財団(第三セクター)との横並びを要求されたことで、新たな学校への参加の呼びかけさえできない状況におかれている。

2.さらに、連絡会事務局は「環境学習を受ける側に混乱か生じる恐れがあるので、類似の学習プログラムについては整理する」としている。つまり、事務局(同財団)がかってに各団体の活動計画を整理して環境学習を推進するということである。このようにNPOがこれまで独自に実施し成果を挙げてきた環境学習事業が制限を受け、その展開が著しく阻害されるという状況が生じている。

3.これらの状況をみて明らかなことは、行政がNPO活動を自らの枠組みに納めようとすることで、NPO主導の柔軟で広域的な取組の展開を阻害していることである。

V.まとめ

 すでに述べたように渡良瀬遊水池保全再生検討委員会等は自然再生推進法を意識して設置されたものである。同法の成立によって今後、行政の姿勢によっては地域で行われてきたNPOやNGO主導の創意工夫に満ちた広域的な取組(従来の行政事業にはない)は、その発展を阻害される恐れが否定できない。同法案の検討に当たり、このような事例を十分に分析することが必要であると考える。

   以上