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1999年鳥獣保護法改正・参議院・国土環境委員会でのNGOの意見

平成11年4月20日 参議院国土環境委員会における参考人質疑より


○参考人(吉田正人君) 日本自然保護協会の吉田と申します。
 当協会はこれまで野生動物の保護問題に関して、昭和三十八年の法改正のときにも意見を述べてまいりました。また、昭和五十年代のカモシカ問題の際には、カモシカ保護基金を設置いたしまして、カモシカ食害防除学生隊というボランティアを滋賀県、岐阜県、長野県などの被害地に派遣して食害防除カバーの取りつけを行うなど、農林業に従事する方々とも一緒になって野生動物と人との共存の道を探ってまいりました。また、その後、野生動物小委員会を設置して、「野生動物保護 二十一世紀への提言」という報告書をまとめ、国の野生動物保護政策に提言してまいりました。
 今回の鳥獣保護法改正に関しては、昨年十二月の審議会答申を受けて「「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」改正に関する意見書」を内閣総理大臣、環境庁長官、農林水産大臣にあて提出いたしました。国土・環境委員会調査室資料の百ページ以下にその全文が掲載されておりますので、ごらんください。趣旨は以下のとおりでございます。(OHP映写)

 (1)国は生物多様性条約の締約国として、重要な生息地や希少な野生生物だけでなく、国内の全ての野生生物とその生息環境を保全する責任がある。したがって鳥獣保護法には、野生動物保護に関する最終的な責任が国にあるということを明文化すべきである。

 (2)野生動物の保護管理をすすめる地方の体制が整わない状態で、捕獲許可権限を地方自治体に移すべきではない。環境庁は自ら野生動物保護の体制を整えるとともに、地方自治体における野生動物保護の基盤作りを援助すべきである。

 (3)野生動物の保護と農林業被害の問題解決を両立させるには、個体数管理を中心とした「科学的・計画的な保護管理」を優先するのではなく、環境行政と農林業行政とが連携して生息地の保全・被害防除に重点を置いた施策を実行すべきである。

 さて、今回の鳥獣保護法改正の目的として、農林業被害への対応とそれから地方分権への対応の二つが挙げられます。
 農林業被害を防ぐには、先ほど三浦さんのお話にもありましたように、防護さく等の被害防除では不十分であり、科学的知見及び合意形成に基づいた科学的、計画的保護管理、ワイルドライフマネジメントが必要だということです。もう一つは、地方分権推進委員会の勧告に従って、国と地方との役割分担を整理する必要があるということで、これには捕獲許可権限の大部分を都道府県や条例をつくった場合には市町村に移譲するという内容が含まれています。
 問題は、この政策を同時に実行しようとするところに矛盾が生じるということです。科学的、計画的保護管理を進めるためには、国と都道府県が協力して実施体制を整えなくてはならない。一方で、保護管理の主体を都道府県に移し、さらに市町村に移すということになりますと、これは大きな矛盾です。
 先ほど三浦さん、羽山さんの参考人意見で、科学的、計画的保護管理がいかに大変なものかということは御理解いただけたかと思いますが、問題は、科学的、計画的保護管理を実施する体制が現段階ではほとんどの都道府県には整っていないということです。
 シカに関して科学的、計画的保護管理を進めている北海道、岩手県、栃木県、千葉県などの情報を集めますと、これらの県ではシカ対策専門の行政担当者を置いたり、野生動物の研究機関を設置したり、少ないところでは三千万円、多いところでは北海道では十億円もの予算をつけて取り組んでいます。現在、これらの道県には国からも資金的な補助がありますが、特定鳥獣保護管理計画の主体が都道府県知事ということになると、これだけのことができるかどうか心配です。ましてや、これを全国の都道府県に広げて科学的、計画的保護管理ができる体制をつくるには、国が十年ぐらいかけて重点的に援助を行わないと無理だと言わざるを得ません。

 一方で、国と地方の役割分担ということで、捕獲許可の権限が市町村までおろされる。これには大変な危惧を抱いています。既に三十道県では一部の種あるいは全部の種について市町村におろしていますが、法改正によってこれが加速することが予想されます。市町村には野生動物を担当する部署もなく、専門官がいるところはほとんどありません。

 審議会答申では、「狩猟及び有害鳥獣駆除における科学性・計画性の充実」がうたわれていますが、ツキノワグマなどに関しては有害鳥獣駆除が事実上猟期外の狩猟許可となっており、有害鳥獣駆除でとったクマの胆が六十万から七十万ほどで売買されています。市町村に捕獲許可権限がおろされると、科学的、計画的な有害鳥獣駆除からはますます遠いものになってしまいます。私が訪れたある東北地方の村の担当者は、もし市町村の事務となったら野生動物を撃ってしまえという声に抗し切れないと心配していました。

 以上のことから、もし科学的、計画的保護管理と地方分権の二つの施策が同時に実行されたとするとどういうことが起こるでしょうか。恐らく、ほとんどの都道府県では十分な予算、人員が割けずに、理想からはほど遠い特定鳥獣保護管理計画がつくられるか、あるいは条例をつくって市町村に権限移譲し、狩猟団体にますます依存した有害鳥獣駆除が行われることになるでしょう。クマ、猿などは科学的な知見が不十分な動物ですので、市町村による有害鳥獣駆除となるおそれが強くなります。
 このような状態になることを防ぎ、都道府県が科学的、計画的な保護管理ができる体制をつくるには、千葉県や栃木県のように市町村への捕獲許可権限の移譲を行わず、国と都道府県により実施体制をつくる以外にありません。

 次に、科学的、計画的保護管理の中で個体数調整が非常に注目されているんですが、個体数調整では農林業被害は解決しないということをお話ししたいと思います。

 昭和五十年代にカモシカ問題が発生したときに、日本自然保護協会は文化庁の委託を受けて全国のカモシカ生息地を調査しましたが、林業被害が甚大な岐阜県では生息密度が平方キロメートル当たり二頭前後でした。東北地方の原生林での生息密度、平方キロメートル当たり八頭前後の四分の一程度の密度にもかかわらず被害が甚大であったのは、拡大造林によって被害の発生しやすい生息環境になったためだと考えられます。
 これはエゾシカの被害が甚大な北海道十勝支庁の足寄郡の植生図です。この植生図、ちょっと白黒では見づらいのでカラーで示します。
 これは一九七九年の植生図で、灰色の部分が針広混交林、自然林です。そして、ちょっと茶色くなっているところが針葉樹の人工林です。次に、これに一九九一年までの十二年間で改変された部分を重ねてみます。今重ねましたこういった部分、つまり残されていた針広混交林、自然林が針葉樹の植林地に変わってしまったことがわかります。
 十五日の本委員会で環境庁の自然保護局長さんが、道東のエゾシカの適正頭数は昭和四、五十年代に安定して生息していた当時の数である六万頭と答弁されましたが、生息地がこれだけ変化していると六万頭でも被害は続く可能性はあります。生息環境をもとのように回復しない限り、個体数だけ減らしても農林業被害はなくなりません。

 最後に、鳥獣保護法を改正するならばこういう課題が残っているという話をしたいと思います。
 昭和三十八年の鳥獣保護法改正当時、既に狩猟をなりわいとしている人はいなくなっていたにもかかわらず、狩猟は有害鳥獣駆除という社会的使命を持ったスポーツという位置づけをしたため、狩猟者に依存した有害鳥獣駆除が行われることになりました。
 しかし、有害鳥獣駆除と狩猟は本来目的が異なります。この最も大きな矛盾点は、有害鳥獣駆除でとったクマの胆が売買されているということでしょう。今回の改正では、乙種免許者が丙種免許を持てるという規制緩和が盛り込まれていますが、このような規制緩和をしても狩猟者の減少はとまりません。また、地元の猟師で足りないからといって広域的参加を求めれば、地元の事情を知らないハンターが多くなり、危険も増大します。もともと公的な任務であった有害鳥獣駆除が、私的娯楽である狩猟に依存していること自体が問題であったのです。有害鳥獣駆除を適正に行うためには、一般の狩猟者の減少を防止するよりも、有害鳥獣駆除のできる技術、モラルを持った専門家を養成すべきです。

 また、昭和三十八年の鳥獣保護法改正時には、狩猟鳥獣、狩猟期間の限定はできましたが、狩猟地域の限定をすることはできませんでした。これだけ人口がスプロール化した現在でも、鳥獣保護区、休猟区、銃猟禁止区域以外では土地所有に関係なく狩猟は可能です。しかし、農林業従事者、野外活動者の安全のためには、狩猟地域を限定すべきです。
 狩猟者の数は、一九七〇年代をピークに半減しておりますが、それにもかかわらず狩猟事故はふえております。これは狩猟者登録者数の推移ですが、七〇年代をピークに五十万人ちょっとありますが、今は二十二万人ほどに減っております。

 狩猟事故のグラフをこれに重ねます。狩猟事故の数は途中まで減っておりましたが、八七年からまたふえております。今、年間百二十件ほどの狩猟事故がございます。狩猟事故の数は、狩猟者の高齢化による狩猟者自身のけがもふえていますが、住宅地や農地の近くでの狩猟による事故もふえています。
 例えば、平成五年には札幌市のハンターが阿寒町でシカを狩猟中に過って引き金に触れ暴発し、付近の国道を走行していた乗用車の運転手の腹部を貫通させ、重傷を負わせた事故が発生しました。また、兵庫県ではシカ猟をしていたハンターが正月用のササとりに来ていた主婦をシカと間違って撃って死亡させた事故、香川県ではキジを捕獲しようと散弾銃を発射し、ビニールハウス越しに農作業をしていた女性に傷害を与えた事故などが発生しています。

 これは埼玉県が狩猟者に配布している鳥獣保護区等位置図というものです。それから、こちらは自然公園利用者に配布している自然公園等配置図です。これが狩猟者に配布しているもので、これが鳥獣保護区、それから休猟区、銃猟禁止区域を示しています。
 こちらは自然公園で、緑に囲まれたところが自然公園、赤いところが特別地域です。都市近郊では市街化区域がほぼそのまま銃猟禁止区域になっていますが、自然公園などでは必ずしも特別地域やハイカーがよく歩く場所が鳥獣保護区、休猟区、銃猟禁止区域にはなっていません。ハイカーはこの地図を持って歩いていますので、自然公園の特別地域だから狩猟はしていないだろうと思って安心して歩くととんでもないことになってしまいます。

 この狩猟者が持っている地図を重ねてみます。この特別地域、この特別地域、この特別地域は鳥獣保護区になっています。それから、この特別地域は銃猟禁止区域になっていますが、一番大きいこの特別地域は何の規制もありません。ですから、ここの関東ふれあいの道というのを歩いていきますと、狩猟はしていないだろうと思って安心して行くと弾が飛んでくるという危ないことになってしまうわけです。この狩猟者に配布されている地図には「注意一秒・事故一生」と書いてあるんですね。怖いことが書かれているんですけれども、こういうことは自然公園を歩く人のところにも書いておかなくちゃいけないということになります。野外レクリエーションが盛んになってきた今日、安心して自然が楽しめるようにしていただきたいものです。

 また、鳥獣保護法改正によって、都道府県ごとに狩猟期間が異なるという事態になってくれば、尾根を挟んで猟期が異なるという、そういうまた怖い事態になります。鳥獣保護区、休猟区、銃猟禁止区域以外ではどこでも撃てるという現在の体制から、可猟区でのみ狩猟を許し、それ以外は原則狩猟禁止とすべきであると思います。これは昭和三十八年の改正時の課題であると同時に、昭和五十三年の自然環境保全審議会の答申の課題でもあります。

 結論として、日本自然保護協会は、現行の鳥獣保護法は以上のような問題を抱えており、大幅な改正が必要だと考えます。しかし、今回政府から出された改正案は、これらの問題を解決できないばかりでなく、地方分権に対応した改正案と同時に実施されれば、一部の地域を除き、今より悪い状態にしかねないものだと懸念します。したがって、当協会としては、今回の改正案には反対の立場です。御清聴ありがとうございました。

○委員長(松谷蒼一郎君) ありがとうございました。
 次に、草刈秀紀参考人にお願いをいたします。草刈参考人。

○参考人(草刈秀紀君) WWFジャパンの草刈です。座らせて陳述させていただきます。
 私は、財団法人世界自然保護基金日本委員会、WWFジャパン、御存じのように、あのパンダのマークのWWFジャパンの自然保護室に勤めております。
 WWFは一九六一年に設立されました世界最大の民間の自然保護団体でございます。スイスに本部がございまして、世界に四百五十万人と約一万社または団体の会員や寄附によって支えられております。世界二十七カ国に各国委員会がございまして、五カ国に提携団体、二十二地域にプログラムオフィスがございます。今回、そのWWFを代表して、私の経験談を交えて意見陳述をさせていただきます。

 まず、WWFとしては、今回の改正案については反対でございます。
 当会がこの改正案に対する反対の理由でございますが、先ほど自然保護協会の吉田さんがほとんど網羅されておりますので、改めて細かいところには触れません。野生生物の保護管理を進める地方の体制が整わない状態で、自治体に十分な受け皿がないまま捕獲許可権限を移すべきではないということでございます。
 WWFジャパンはその事業の一つとして、国内の草の根の団体や研究者などの自然保護活動に対して助成金を出しております。WWFジャパンが助成しております団体が事務局をしております鳥獣保護法改正を考えるネットワーク、そのアンケート調査で今回の改正案の問題点がほぼ明らかになりました。(OHP映写)

 このネットワークが全国の都道府県の担当部局にアンケート調査をしまして、すべての鳥獣保護業務を都道府県レベルで行うことは二十八件が困難であると。その理由としては、財政的、人員的、調査能力的に非常に難しいという回答が出ております。
 すべての鳥獣ということですが、これは環境庁の資料ですけれども、これからは地方分権一括法で、今までは五百六十五種が、六十三種、都道府県知事という形が、今後地方分権が行われますと、五百三十一種が都道府県知事の対象というふうなことで、すべての鳥獣を都道府県に任せていくことになると言っても過言ではございません。
 さらに深めて、市町村レベルでやることはということについては、実に三十八件が困難であると。それも先ほどと同じように、財政的、人員的、調査能力的にも難しいというアンケートの回答をいただいております。
 では、既に今やっているところでどういった駆除個体についての情報をとっているかと。とっているところは二十三件あるんですけれども、そのとっているところというのは、ヒグマとかシカとかツキノワグマとか猿とかそういった部分だけでありまして、ほとんどの鳥獣についてはデータをとっていないという状況でございました。
 それから、担当部局に野生鳥獣の生態や分布、被害の実態について総合的に把握している専門家、担当官はいるかということで、担当官がいるというのはわずか三件でありまして、ほかは、十件は委託しているとかそういった状況でございます。
 では広域的な調整の仕組みができているかというふうなことでも一つ挙げてありますが、できているというのはわずか八件でありまして、十二件ができていない、二十件が検討中である、そういったアンケートの結果が出ました。

 ということでございまして、個体数管理を中心とした科学的、計画的な保護管理を優先する被害防止を駆除に頼った改正案では、農林業被害等の問題の根本的な解決にはならないと思います。また、駆除にかかわる捕獲技術者が専門官ではなくスポーツハンターであることは、野生生物保護の観点から望ましいことではないと思います。
 先ほど吉田さんが指摘されたように、都道府県の権限による猟期の延長や捕獲数の増加などにより人身事故が増加する可能性もございます。また、野生生物保護や保護管理に対する国や自治体の責任が明確になっていないという問題点もございます。改正案には農林業者の経済的損失を解消するための被害補償制度もありません。さらに、十五日の審議でもございましたが、散弾銃や鉛弾による鉛中毒が問題にされている中、空気銃の規制緩和という、さらに鉛を自然界に放出することは到底容認できません。今回の改正案等については、アメリカのシエラクラブやレインフォレスト・アクション等の環境NGOも反対を表明しております。

 さて、全国的に保護管理計画を進めるというふうなことで動いておりますが、一つ例を取り出しまして、四国におけるシカの保護管理計画について、その可能性について先日保護管理を進めている専門官のコメントをとりました。四国には、徳島を中心とした個体群と高知を中心とした個体群が生息しております。四国は地形が複雑であり、広葉樹林は調査しにくい環境にあります。各県に林業試験場があり、被害が大きいところは担当者を置いておりますが、専門的なことがやれない状況にあり、モニタリングは無理とのことでございました。したがいまして、四国における保護管理計画策定については、地方自治体が自前の研究機関を持たない限り、地域に根差した野生生物保護の管理業務はできない、現状では大変難しい状態であり、全国的展開で論議をする必要があるという答えをいただきました。

 さて、反対のもう一つの理由でございますが、それは合意形成についてでございます。
 まず、これまでの改正案が出てくる流れの中での合意形成の問題点でございます。
 平成九年六月から平成十年四月まで環境庁は、クローズド、非公開の検討会、鳥獣管理・狩猟制度検討会を七回にわたり行い、平成十年四月にその報告書をまとめました。その間、非公開で、一切NGOに対する意見は求められておりません。また、この検討会のメンバーの中にはNGOが入っておりますが、それは鳥類に関する団体でありまして、哺乳動物を保護の観点から意見を述べられる団体は入っておりません。また、同検討会の報告書を踏まえて、平成十年五月から十二月まで、自然環境保全審議会野生生物部会が三回、同部会内に設置された野生鳥獣保護管理方策小委員会が六回開催されました。その結果が十二月十四日の答申にまとめられました。しかしながら、その間、一般の傍聴は認められましたが、NGOに対する意見を聞く試みは一切されませんでした。

 さらに、つけ加えさせていただければ、昨年八月二十七日と二十八日、これもクローズドなワークショップとしてニホンジカ保護管理ワークショップ、これは自然環境研究センター主催で開かれましたが、全国の鳥獣保護行政官と研究者が主体で、これに呼ばれたNGOは自然保護協会とWWFジャパン、野鳥の会だけでありまして、他の団体や一般の方々が聞けない状況でした。

 さらに、今回出された改正案にある合意形成の問題点でございます。
 聞くところによると、既に特定鳥獣保護管理計画策定のためのガイドラインの作業が進められているようですが、これについて何らコメント、助言は求められておりません。また、特定鳥獣保護管理計画策定に当たって合意形成機関が従来の公聴会しか位置づけられておりません。
 ことし六月、環境影響評価法が施行されますが、今までなかった方法書や準備書に対する国民からの意見が反映され、先進的に行われているところでございます。環境影響評価法の第八条に、環境保全の見地から意見を有する者に意思決定過程に参加する権利が与えられておりますが、本改正案には利害関係者としか位置づけられておりません。
 このようなわけでして、合意形成がない背景でさまざまなことが進められ、改正案が出てきたわけでございます。なぜ事前にさまざまな方面から意見を取り入れる場がなかったのか残念でございます。

 しかしながら、現実には野生鳥獣により農林業被害が起こっていることも事実でございます。私自身これまで野生鳥獣の林業被害に関与してきておりまして、経験談ではございますが、昭和五十年代に長野や岐阜、滋賀県といった地域で特別天然記念物であるニホンカモシカが植林木の苗木を食べることで社会問題として取り上げられ、先ほど吉田さんが話されましたカモシカ食害防除学生隊に参加しました。中央の団体が日本の天然記念物であるニホンカモシカを守れと一方的に言うのではなく、ニホンカモシカも守り日本の林業も守る方策はないかと検討したわけでございます。
 ニホンカモシカによる食害は主に冬場に発生します。下草刈りをした植林地に雪が降りますと植林木だけが出ております。植林地に出てきたカモシカがこれを食べるわけでございます。杉やヒノキといった木はその成長点、先端でございますが、これを食べられない限りは木が真っすぐ伸びるということで、苗木一本一本にポリネットといいまして、キオスクで売られているミカンとかが入っているポリエチレンのネットでございますが、このネットをかけてビニタイ、針金の入ったビニールのひもでございますが、それでとめるわけでございます。これを秋にかぶせに行って春に外すという作業をボランティアで行っておりました。同時に、被害状況の調査も行っておりました。被害防除ネットで被害が防げることがわかったのでございますが、人手の少ない地域では有効ではないという問題がございました。

 また最近では、ツキノワの会、これもWWFジャパンが助成している団体でございますが、埼玉県の秩父で広葉樹の植林や国有林における被害対策をボランティアで活動しております。これも私が手伝いました。植林や被害防除作業は、急峻な日本の山間部では苗木の束を担いで斜面を上りおりする、これは大変な作業でございます。埼玉県の国有林はシカによる被害が出ております。ほとんどの植林が丸坊主の状態で、いわゆる被害の激甚地でございます。実際には、植林をした後、被害が出てあわてて防除作業をしている状況でありまして、埼玉県ではポリネットやツリーシェルターというプラスチックの食害防止のチューブを使って防止をしております。現実問題として、被害が出て防除しているというモグラたたき的なことをやっております。効果的に被害防除をするシステムができていないのでございます。植林をして翌日このツリーシェルターをすることによって九割食害が防げるのでございます。

 さて、提案でございますが、法改正反対といっても、実際には多くの農林業被害が出ており、今回の改正につきましては、審議員の方々や多くの研究者の方々が努力されてきているわけでございます。保護管理の重要性もわかりますが、私としては次の提案をしたいと思います。
 今回の改正案を見送りとして、環境庁が音頭をとって、例えば農林業及び野生生物保護のための方策検討会をつくって、その検討会には官民、NGO、まさにここにおられる環境議員の方々や農林業者の代表、環境NGO、環境庁、林野庁、農林水産省、文化庁それから都道府県の関係者、研究者、文部省等の教育関係者がひざを交えて、今回の改正案を土台として十分な合意形成を図りつつ再検討することでございます。鳥獣保護法を狩猟法と野生動物保護法に分け、抜本的な改正の中に鳥獣保護管理計画も位置づけるのでございます。

 このように一、二年後の鳥獣保護法の抜本的な改正を目指して検討することこそ、将来環境省となる環境庁のためにも禍根を残さない最善の方法と考えます。それまでは現行法内で保護管理計画を進め、被害が出ているところはやむなく有害鳥獣駆除で対処するしかないと考えます。
 長くなりましたが、鳥獣保護法改正について世界に恥じない公正な判断をしていただきたいと思います。
 また、本日、参考人として推薦していただきましたことをこの場をかりてお礼申し上げます。ありがとうございました。