生物多様性保全・法制度ネットワーク
生物多様性保全・法制度ネットワーク
(旧)CBD市民ネット・生物多様性関連法制度部会
(旧)野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク
分野別活動データ
生物多様性条約
生物多様性基本法
生物多様性国家戦略
種の保存法
鳥獣被害防止特措法
鳥獣保護法 2006
鳥獣保護法 2003〜05
鳥獣保護法 2002
鳥獣保護法 1999〜
外来・移入種関連法
遺伝子組換生物法
自然再生法
動物愛護管理法
個別問題
資料
リンク

 

HOME > 20065年鳥獣保護法改正
2006年(平成18年)鳥獣保護法改正に対するNGO意見(参議院)


法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2006年5月8日、参議院)

○参考人(吉田正人君) 御紹介いただきました江戸川大学の吉田でございます。
 日本自然保護協会の理事並びに野生生物保護法制定をめざす全国ネットワークの世話人を務めております。非常に長い名前ですので野生ネットと省略させていただきますが、このネットワークは、平成十一年の鳥獣保護法改正における議論をきっかけに、全国の野生生物保護にかかわる四十五団体が鳥獣保護法の抜本改正を含みます野生生物保護法体系の体系的確立を目指してつくったネットワークでございます。平成十六年には鳥獣保護法改正の要点を「鳥獣保護法 ここを変えたい九項目」という冊子にまとめました。これは参議院環境委員会調査室がまとめられた参考資料の百四十三ページに載っております。本日は、その中から五点に絞って意見を申し述べさせていただきます。

 平成十一年の鳥獣保護法改正は、これまで有害鳥獣駆除で場当たり的に対処してきたのに対して、科学的、計画的保護管理を行う特定鳥獣保護管理計画制度、これも長いので特定計画と呼ばさせていただきますが、これを導入したことです。しかし、地方分権一括法に基づく捕獲許可権限の自治体への移譲が同時に審議されたため、科学的、計画的保護管理が担保できないとして強い反対の声が上がりました。そのため、三年後の見直しを定めた附則を付けて採択されたものです。
 そこで、まず特定計画の評価からお話しいたします。

 野生生物保護管理には、この図にかきましたように、個体数管理、被害管理、生息地管理の三つの柱がございます。昨年、この野生ネットが都道府県に出しましたアンケートの結果からも、特定計画はシカなどの個体数調整計画としては効果を上げておりましたが、被害対策や生息地管理というものについては十分効果を上げていない、あるいは効果測定を行っていないという県が多いということで、十分な効果を上げているとは言えませんでした。

 これは、被害管理、生息地管理などは農林水産部局が担当している場合が多く、鳥獣保護を担当する部局との連携が十分でないためだと考えられます。被害管理、生息地管理をしっかり行うためには、現在のように単独の県内で単一の種を対象として作成する特定計画では十分とは言えません。むしろ、広域の圏で複数種を対象とした地域管理計画に統合した方が実効性が上がるのではないかというふうに考えております。

 具体的に申し上げます。例えば、一つの山系が二つの県にまたがっているといたします。その山系に野生生物が生息している場合、現在は都道府県ごとの、こちらのA県、B県、都道府県ごとに特定計画を策定することとなっています。そのため隣県との調整が十分でないという場合もございます。また、一つの県の中でもシカ、イノシシ、猿、クマなど複数の特定計画を作っている場合、特定計画間で調整の仕組みが必要ですが、そういった仕組みを持っているとお答えになったのは、丹沢大山保全計画を作った神奈川県など五県のみでした。

 しかし、野生生物は県境などお構いなしに移動いたします。農林業被害を防ぐ防護さくも、一つの防護さくで猿、シカ、イノシシ、それぞれの防護の役割を果たすというものがつくられております。こういったように、猿、シカ、イノシシなどが一緒に生息する地域では被害管理、生息地管理を強化するため、都道府県知事はこれまでの特定計画を統合して地域管理計画を策定することができる、あるいは隣県の知事と共同で地域管理計画を立てることができるというような法改正が必要だと思います。

 次に、人材の育成と配置の話をいたします。
 現在、野生鳥獣の捕獲を大きく狩猟者に依存しておりますが、狩猟人口の推移を見ますと、一九七〇年代に五十万人を超えていた狩猟者は二〇〇〇年には二十万人近くまで減り、年齢も五十歳代、六十歳代以上が大半を占めるなど高齢化が進んでおります。もう十年もいたしますと、狩猟者に依存して野生鳥獣の捕獲をするということが非常に困難な時代になってまいります。
 平成十四年の鳥獣保護法改正で生物多様性の確保が目的に入りました。また、この鳥獣の保護には希少種の保護ですとか、外来種の駆除ですとか、野生生物問題非常に多様化しております。そこで、野生生物の科学的保護管理には専門家の配置がどうしても不可欠になってくるわけでございます。
 平成十一年に環境庁が設置した野生鳥獣保護管理検討委員会は平成十六年末に報告書をまとめました。私もその一員として参加したわけでございますが、この中では野生生物保護管理の人材の育成と確保が最重要課題に上がっております。また、当時、環境相は、野生生物保護管理の資格制度の創設を今回のまとめの目玉だと発言されていらっしゃいました。また、野生ネットが取りました都道府県のアンケートでも、人材の育成と確保というのは一番の要望項目として上がっておりました。

 ところが、いざ野生生物の保護管理の資格を創設するという段になりますと、国家資格の新設は非常に難しいとか予算がないなどの理由で専門家の配置は聞かれなくなり、代わって、農林業者が自衛のためにわな免許を取りやすくするという改正にすり替わってしまいました。ここで改めて、野生生物の専門家の配置を促進するため、野生生物保護専門員の国家資格の創設と、この資格を持った人材が都道府県の担当部局や鳥獣保護センターなどの現場に配置されることを提案いたします。
 人材配置の予算がないことが専門家配置の妨げになっていると言われますが、現在の目的税、狩猟税の中からだけでも、職員費十八億円、放鳥費四億円、鳥獣保護員の委嘱費六億円、合わせまして二十八億円の原資がございます。これを人材の再配置の原資とすれば、自然保護センターの専門職員、鳥獣保護の現場スタッフの増加に使える原資を生み出すことは不可能ではありません。また、現在の鳥獣保護法でも、狩猟の免許の種類を一般狩猟免許と野生生物保護管理免許に分けるなどの工夫も可能であると思います。

 三番目に、わなのお話をさせていただきます。
 今回の改正の目玉の一つは、網・わな免許を網免許とわな免許に分けることによって、わな免許を取りやすくするものと言われています。しかし、わなは鳥獣を無差別に捕獲いたします。希少野生鳥獣さえ、その被害に遭っています。また、ホームセンター、インターネットでだれでも狩猟免許を提示せずに購入できるため、無免許、無許可のわなが野放しにされているのが現状です。

 昨年十二月に環境省が、都道府県に免許の掲示を義務付けるように通知を出しましたけれども、地球生物会議、ALIVEの調査ですと、七〇%の県が受け取っただけでその後は何もしていないということでございます。したがって、わな免許の創設の前に、危険なわなであるとらばさみや一部のくくりわなの使用のみならず販売も禁止すべきであると思います。これは、絶滅のおそれのある野生動物である長崎県のツシマヤマネコ、それから北海道のオジロワシがとらばさみに掛かってしまったという写真でございます。くくりわなでも、ストッパーが付いていないもの、また細いワイヤーを使ったもの、イノシシ用のとらばさみにツキノワグマが掛かって、誤って掛かったとしても野生に復帰させることは困難です。これがそういったわなにツキノワグマが掛かってしまった場合で、そういった場合にはやむを得ず射殺するということをせざるを得ません。

 このように、目的としない動物がわなに掛かることを錯誤捕獲と言いますが、錯誤捕獲個体の報告義務がないため、その実態が明らかとなっていません。アライグマ、都道府県にアンケートを取った結果、錯誤捕獲の統計のある六県だけで、昨年、六十九頭のクマが錯誤捕獲されたそうです。錯誤捕獲の報告の義務付け、野生復帰の義務付け、錯誤捕獲防止のための見回りの強化、違法なわなをだれでも撤去できるようにすること、また、わなだけではなくて、鳥獣保護法違反の罰則を外来生物法と同様に、懲役三年、罰金三百万円以内まで引き上げるなどが重要だと思います。

 四番目に、昭和五十三年の自然環境保全審議会で大きな議論となった狩猟の場の話をいたします。
 この審議会では、鳥獣保護区、銃猟禁止区域など狩猟を制限する場を指定する方式から、猟区、可猟区など狩猟が可能な場を指定する方式への転換が議論されました。簡単に言えば、ゴルフは、昔は牧場とか野原とかどこでもできたものを、ゴルフ場でするというふうに決めたようなものです。しかし、これは合意には至りませんで、現在も狩猟期間中であれば鳥獣保護区や銃猟禁止区域などを除けばどこでも狩猟ができます。猟区以外で狩猟ができる場所、これを乱場と呼んでおります。

 しかし、近年、狩猟者の高齢化もあり、狩猟事故が増加しております。農作業や登下校時などに弾が飛んでくるといった、乱場における第三者への事故も発生しております。栃木県では登下校時に弾が飛んできた、あるいは滋賀県では学校の体育館に弾が飛んできたという事件が起きております。また、乱場における狩猟は自由狩猟であるため入猟者数の制限などがしにくく、科学的な保護管理につながらないことが問題となっております。このように、危険防止という観点からも、野生鳥獣の科学的保護管理という観点からも、狩猟の場の在り方を見直すべき時期に来ております。

 具体的に申し上げます。現在は狩猟期間中であれば鳥獣保護区あるいは銃猟禁止制限区域、市街地、公道などを除けばどこでも狩猟ができます。猟区以外で狩猟ができる場所を乱場と呼んでおります。これに対して、国土を野生生物保護ゾーン、管理狩猟ゾーン、人と野生生物共存ゾーンの三つに分け、現在、乱場とされている区域では人と野生生物とのあつれき解消のため、農林被害防除や科学的根拠に基づく捕獲を行うとする、これが野生ネットが提案する制度であり、平成十四年の国会に四万人の国会請願を、署名を提出いたしました。

 しかし、一方で狩猟の場の減少する声、あるいは農林業の被害の拡大を危惧する声もあります。そこで、狩猟による事故の防止、科学的野生生物保護管理を目的として、全国を流域ごとにこのようなジグソーパズルのようにすき間なく分けて、このパズルごとに保護管理の方針、狩猟の方針を定めることで乱場をなくす方向で検討すべきではないかと思います。これは既に丹沢や房総などのシカ問題でも既に試行されておりまして、法的な根拠を与えれば科学的保護管理に資するものと思われます。
 本改正案では、わな制限区域、休猟区における特定鳥獣捕獲、都道府県知事承認による狩猟区域の設定が提案されておりますが、これは言わばこの都道府県知事による区域指定に当たるわけですけれども、ますます制度としては分かりにくくなっています。むしろ、都道府県知事が鳥獣保護事業計画を作る、その中で乱場を区分して、その区画ごとに独自の計画を設定できるという方が分かりやすいのではないかと思います。

 五番目に、平成十四年の法改正で鳥獣保護法第一条に生物多様性の確保が盛り込まれ、第二条で鳥獣とは鳥類又は哺乳類に属する野生生物という定義がなされたことは画期的でした。一方で、八十条で、他の法令により捕獲等について適切な保護管理がなされている鳥獣は適用除外とされ、ジュゴン、アシカ、アザラシなどが対象とされる一方で、トド、ラッコ、オットセイ、クジラ類などほとんどの海生哺乳類が適用除外とされています。しかし、対象とされた鳥獣と適用除外とされた鳥獣にほとんどはっきりした区別はございません。例えば、ジュゴンが対象となっている一方、クジラの中ではスナメリのようにジュゴンと同じように沿岸で繁殖しているものもございます。ですから、この適用除外というものについて科学的に見て除外することが適切なのかどうか、定期的に見直す科学委員会を設置して、将来的に改正法によりすべて鳥獣保護法の対象とすべきではないかというふうに考えております。

 最後に、野生生物と人との共存を実現するためには野生生物保護基本法が是非とも必要であるということを申し上げて、締めくくりたいと思います。

 野生生物と人間との共存は、個体数管理、被害管理、生息地管理の三つが一体となって初めて実現されるものです。それには数多くの法律が関係されておりまして、関係する省庁も複数にまたがっております。そこで、野生生物保護に関する国の方針を定め、専門家の配置や市民参加を強化する基本法がどうしても必要なのです。こういった野生生物保護基本法を議員立法によって是非早期制定していただくことをお願いして、私の発表を終わります。
 御清聴ありがとうございました。

法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2006年6月6日、衆議院)