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2006年(平成18年)鳥獣保護法改正に対するNGO意見(参議院)


法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2006年6月6日、衆議院)

○草刈参考人 御紹介いただきましたWWFジャパンの自然保護室の次長をしております草刈です。
 野生生物保護法制定を目指す全国ネットワークの世話人も務めております。今回、参考人として意見陳述の場をいただき、ありがとうございます。
 野生生物保護法制定を目指す全国ネットワークは、平成十一年の鳥獣保護法改正における議論をきっかけに、全国の野生生物保護にかかわる四十五団体が、鳥獣保護法の抜本的な改正を含み、野生生物保護法体系の体系的な確立を目指してつくられたネットワークでございます。ここでは野生ネットと呼ばせていただきます。

 私の意見陳述の要約でございますが、次のようになっております。
 まず、今回の改正案に関する評価、次に改正案に関する問題点、そして改正すべきポイント、最後に野生生物保全の将来像について話させていただきます。

 改正案に関する評価でございますが、今回の鳥獣法の一部改正案については、野生ネットは反対でございます。その理由は、三年後の見直し条項及び過去二回の改正につけられた附帯決議をどこまで実現できたかというふうなことがあります。三年後の見直しは実現されておらず、過去二回の国会の附帯決議事項がほとんど達成できていない状況があります。調査研究、人材確保、生息環境整備、被害防除対策事業など、予算も人材も不足しており、一部の府県を除き機能不全の状態です。
 特に、野生鳥獣の保護を一層明確にした法制度は全く実現されておりません。被害防除と狩猟との区分の明確化、適用除外の意見聴取や海生哺乳類保護の省庁連携、とらばさみ、くくりわなの猟具からの除外など、実現されておりません。辛うじて外来種問題への早急な対応が進められた程度でございます。

 今回の改正案に関する問題点でございますが、休猟区における鳥獣捕獲は、猟区内における捕獲数の上限を設けることや、鳥獣保護員による見回りや監視を強化すること、生態系への影響等が認められた場合は、速やかに捕獲を禁止することなどが必要と考えます。

 狩猟免許の区分についてですが、スポーツハンティングとして狩猟を行う人に与える免許と野生動物の保護管理の知識と技術を持った人に与える免許に分けるべきと考えます。

 また、網やわな免許の条件を厳しくすることが必要だと考えます。有害捕獲の従事者も、網・わな免許を有していることを必須条件とすることや、錯誤捕獲、混獲を防止する対策を義務づけること、見回りと錯誤捕獲の混獲の場合の放獣を義務づけることなどです。

 入猟者の承認制度についてでございますが、生息数が増加している狩猟鳥獣について、捕獲禁止措置の緩和が求められ、都道府県知事の事前承認を受けることにより、一定の区域において鳥獣の捕獲ができることが考えられておりますが、これは、狩猟の場の問題だと思います。狩猟ができる場、これは乱場と申しますが、国土の六割を占めております。この猟ができる場所や休猟区において、都道府県知事が区域を指定して、特定鳥獣の捕獲頭数、捕獲方法、入猟者数を定めることができるとすべきです。

 わな猟における危険防止についてですが、危険性の高いわなについて、その使用を禁止、制限する区域を指定することができることになっておりますが、危険性の高いわなに限定せずに行うべきと考えます。

 わな免許以前に解決すべき問題が山積みされていると思います。
 例えば、先ほども指摘がありましたけれども、錯誤捕獲の防止、見回りの強化、錯誤捕獲個体の放獣、錯誤捕獲の報告義務、違法わなの撤去、罰則の強化など、課題が多い状況です。危険なわなの使用、販売を全面禁止にすべきと考えます。先般も与党からとらばさみは廃止すべきではという発言があったばかりです。とらばさみについては、使用、販売を全面禁止にする、くくりわなについては、胴くくり、首くくり式は禁止し、ストッパーのないものも禁止する、ワイヤの太さが四ミリ以下のものも使用禁止にすることなどです。

 錯誤捕獲しても野生復帰ができないわながございます。実際、錯誤捕獲しても野生復帰できない状況が多数見受けられるため、鳥獣保護法違反の罰則強化として、罰則の上限を懲役三年、罰金三百万円に引き上げる必要があると思います。

 先般の参議院における質疑では、環境省の地方事務所が見回りの対応をする話もありましたが、地方環境事務所を統合したことにより、国立公園など野生生物を身近で管理できる環境がなくなり、都市部に人が集められたことにより、ますます見回り、監視ができない状況になっております。錯誤捕獲の実態が、把握も監視もできないのであれば、危険なわなの使用、販売は全面禁止にすべきと考えます。

 奥山放獣、科学的な研究の危機というふうなことで、一昨年、クマが異常出没して、奥山放獣または学習放獣がされました。奥山放獣は、人家の近くへ出没したものや農業被害を起こした問題グマを捕獲して、標識などを装着して、このような行動をしないよう学習させて放獣する管理保護法です。
 奥山放獣に限らず、野生動物を科学的に解析するため、捕獲して一時的に動けなくするために一般的にケタミンが使われております。先般、このケタミンが厚生労働省で麻薬指定され、さまざまな場面で支障を来しております。さまざまな学会、NPO、各県の担当部局から要望書が出されております。パワーポイントにも書いてあるとおり、いろいろな団体が出されています。お手元の資料に、日本クマネットワークが出した麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬の新規指定に関する要望書がありますので、ごらんください。

 ことしもクマの出没警告が出されたと聞いております。例えば、特別な場合につき、手続の緩和や薬品の効能に野生動物用など限定利用できるような対応策が求められております。

 網、わな設置者の表示義務についてでございますが、表示がないわなについてはだれでも撤去ができ、警察または司法警察権がある者に引き渡すことができるようにすることや、自己占有地においても捕獲情報の報告義務などを設ける必要があると考えます。

 鳥獣保護区の保全事業の創設についてでございますが、鳥獣保護区について一つ例を示します。
 ツキノワグマで最も絶滅のおそれの高い地域が四国の剣山地域の個体群であります。四国はわずか十頭から十数頭しか生息していない状況です。以前は、この左側の方にあります石鎚山山系にも生息していたと言われておりますが、現在はこの剣山地のみに生息しております。剣山地は、現在環境省の国設鳥獣保護区と林野庁の緑の回廊の指定がされております。この赤い線で囲った部分が緑の回廊の指定地域、黄色い線で囲った部分が鳥獣保護区でございます。この地図に緑の部分がありますが、これは生息適地、ブナ、ミズナラの植生がある場所です。また、この青い線で囲った地域ですが、これは林野庁の制限林でございます。

 剣山地域は、十年前に調査した後、これまでクマの行動圏調査がされておりませんでした。昨年WWFジャパンが助成したNPO法人四国自然史科学研究センターが三頭のクマを捕獲し、電波発信機を装着しました。この三頭の行動圏が黒い線で囲った部分でございます。環境省、林野庁の指定地域と外れた地域が主要な生息地になっております。
 先般、この調査結果に基づいて、四国地域のツキノワグマを保護するための国設鳥獣保護区設定区域の見直しと包括的な保護管理対策を求める要望書を環境省に提出いたしました。要望事項は、剣山山系の国設鳥獣保護区の指定区域の見直しと拡大について、また包括的な保護管理対策の検討と実施についてでございます。この要望書についてもお手元に配らせていただきました。周辺の広葉樹林の森も鳥獣保護区に含める、また緑の回廊を制限林まで含める要望をしているところでございます。環境省のリーダーシップが求められていると考えております。

 輸入鳥獣の識別措置の導入についてでございます。
 輸入鳥獣の識別だけでよいのでしょうか。野生鳥獣及びその製品の輸入は禁止するべきだと考えます。ただし書き、つまり輸出証明書が必要な対象国はわずか十六カ国です。証明書が不要な国は百八十カ国以上あります。二十六条はもともと、国内で違法に捕獲が行われるおそれのある種について、国内の鳥獣の保護の観点から輸入を規制するというのが趣旨であります。この条文のただし書きは削除すべきと考えます。

 また、二十六条において、国内で違法に捕獲が行われるおそれのある種について、国内の鳥獣保護の観点から輸入を規制するとの趣旨を踏まえ、野鳥を含む鳥獣輸入について原則禁止とする規定を置くことを早急に検討すべきと考えます。

 日本産と同種の鳥類が店頭に出回っております。輸入品と偽って、国内で違法に捕獲された野鳥が販売されております。これは第二十六条の重大な欠陥です。百八十カ国の中にはアメリカも含まれております。輸出証明機関がないのではなく、鳥獣の輸出を禁止しているために対象国とされていない国も含まれております。仮にアメリカ合衆国から密輸されれば、それは適法輸出と同じ扱いになってしまいます。施行規則二十七条で挙げられている二十三種類以外に百十四種類もペットショップで出回っている現状がございます。

 密猟防止の問題点として、愛玩飼養とそのための捕獲もいまだ許可している状況です。輸入規制と愛玩飼養の関係を整理する必要がございます。これまで何度か答申に明記されておりますが、実行されていない実態があります。

 改正すべきポイントについてでございますが、今回の法改正で漏れたポイントを指摘させていただきます。
 野生ネットが都道府県にアンケート調査を行った結果ですが、最も都道府県が求めている改善点が、人材の育成と配置です。狩猟制度をワンランクアップさせた資格制度が必要だと思います。今、寺本参考人の方からも、人材の育成の重要性が指摘されたと思います。

 野生生物の保護管理の専門家の配置についてでございます。
 狩猟人口を見ますと、保護管理、つまり捕獲の担い手が減少、高齢化していることがわかります。また、鳥獣保護法の目的に生物多様性の確保が加わり、野生生物の問題も多様化している状態です。野生生物の科学的保護管理には専門家の配置が不可欠です。一昨年、野生鳥獣保護管理検討会の報告書がまとまり、今回の改正の目玉は資格制度と聞いておりました。話によりますと、この資格制度の未発表報告書があると聞いております。まだ報告書が印刷には回っていないというふうなことで、その担当の手元でとまっているというふうに聞いております。この報告書を公開して、資格制度について早急に検討すべきだと考えます。

 鳥獣保護員の配置についてでございます。
 野生生物保護専門員と鳥獣保護推進員の配置が必要になっています。財源が足らないわけではないと思います。狩猟税から得られる資金、一般会計から職員費として十八億円が回されております。また、目的税として放鳥費四億円、鳥獣保護員の委嘱費六億円、すべて足し上げますと、人材の再配置に使える原資は現在でも二十八億円もあります。財政的な支援ができないのであれば、財源の有効な活用を考えるべきと思います。

 乱場制を廃止して科学的な管理というふうなことで、入猟者の承認制度のところで乱場についても触れました。現在は、このように、保護地域から銃猟禁止地域以外、どこでも狩猟が可能な乱場の環境になっております。これを、野生鳥獣の被害が多いところで管理狩猟ゾーンを指定し、それ以外の場所は生息地管理や被害防除を主体とした狩猟制度に変えるべきと考えます。

 特定鳥獣保護管理計画から地域管理計画へ。
 現在の特定鳥獣保護管理計画、以下特定計画と呼びますが、この特定計画の保護管理の三本柱は個体数管理と被害管理、生息地管理です。現在は個体数管理が多く、被害管理、生息地管理は不十分な状況です。特に生息地管理は全く対応できない状況です。提案する地域管理計画は、特定計画から複数種、広域圏を対象とした地域管理計画に統合すべきというものです。

 現在の特定計画の技術マニュアルがございますが、これを改定する方向になっております。現在の技術マニュアルは、例えば、先ほど申しました剣山地のクマについてはこのマニュアルでは計画が立てられない状況です。この技術マニュアルは、いわゆる個体数管理を主軸とした記述になっておりますので、四国のような絶滅のおそれのある種に対して生息地を管理するマニュアルにはなっていないというふうなことでございます。

 それから、海生哺乳類の法律を対象にするべきだと思います。
 多くの海生哺乳類が八十条で適用除外になっております。先般の参議院の質疑でも、環境省所管、法律一本で漏れなく哺乳類や鳥獣、できれば他の野生生物も保護管理する方がわかりやすい、または、何を適用除外にするか第三者的な機関で検討する必要がある、もしくは、水産資源保護法は、鳥獣保護法と同じように生物多様性の目的をきちんと追加すべきだ等の質問に対し、環境省から、海生哺乳類など適用除外種については、これまでも学識経験者などからの情報を踏まえ、中央環境審議会の場の意見を聞くことによって検討してきたという答弁がございましたが、トドについて審議会で一回意見を聞いただけで、トドを実際に調査している現場の研究者ではありませんでした。また、八十条について、審議会で、または検討会で実際に議題に上げ、専門家を呼んだ議論はされておりません。
 早急に中央環境審議会の野生生物部会で八十条全体について審議会や検討会を実際に立ち上げ、議題に上げ、新たな見直しのための検討委員会を設けることを検討するか、専門家を呼んだ議論をすべきと考えます。

 最後になりますが、野生生物の保全の将来像でございます。
 鳥獣保護法や種の保存法では日本の野生生物は守れません。各法令における野生生物の対象範囲を見ますと、鳥獣保護法は哺乳類と鳥類を対象にしておりますが、これには適用除外項目がございます。また、種の保存法では、絶滅のおそれのある種のわずか二%しか保護増殖事業が進んでおりません。
 また、今回の議論は、哺乳類二百四十一種のうち五種類、シカ、カモシカ、猿、イノシシ、クマについての議論がメーンになっております。鳥類については七百種のうち一種類、カワウのことが議論されております。それ以外の哺乳類、鳥類の保全は進んでおりません。最近、トウキョウダルマガエルが少なくなってきたという記事を見かけました。両生爬虫類や昆虫、植物など包括的に対応した法律がない状況でございます。

 現在の法制度の現状は、環境基本法の下に循環型社会形成推進基本法があり、その下に個別の法が並んでおります。いわゆるアンブレラとなる基本法がある状況でございます。種の保存法や鳥獣保護法などにおいては、このアンブレラとなる基本法がない状況です。

 生物多様性の保全は鳥獣保護法だけではできません。アンブレラとなる基本法が必要な時期に来ております。野生生物保護に関する国の基本指針、都道府県の基本計画が必要であり、生息地保護、被害防除には省庁の縦割りの打破が必要になります。また、市民参加の強化や、広く野生生物の専門家の配置を促進する法律が必要になっていると考えます。野生生物基本法の早期制定を求めております。この基本法には、全国百三十団体が必要だと賛同している声が上がっております。ぜひ野生生物基本法の早期制定を求めまして、私の意見陳述を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2006年5月8日、参議院)