生物多様性保全・法制度ネットワーク
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自民党有害鳥獣対策検討チームのヒアリングにおける提言

2007年4月18日

鳥獣害対策の促進に向けての提案

                
    野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク

1,現場対応型のソフト事業の推進

(1)現場対応のソフト事業
 鳥獣害対策には、種の分布の状況、生息環境、生態や行動特性、地域の社会的条件等、様々な要因を総合的に把握して判断していくことが重要である。それを知らないで対処することは費用と労力の無駄使いとなる。各地域で、自ら取り組む被害防除の工夫考案への支援や、被害対策講習会を開催する等のソフト面での事業を進めることの方が、はるかに効果的な場合が多い。

(2)市町村への支援のあり方
 有害鳥獣の捕獲の許可権限が市町村に委譲されてきたが、被害が軽減したという効果よりは、むしろ、市町村の財政難と人材不足に加えてさらなる負担増にあえぐという状況に陥っている。今、地域の住民にとって切実な必要性は、被害問題に関する相談窓口の設置、野生鳥獣の生態や行動に応じた簡便な被害防除の方法の開発とその情報の提供である。

(3)対策マネージャーの設置
 特定鳥獣保護管理計画が導入されたにもかかわらず、鳥獣被害対策が進まない要因の一つに、県や市町村のレベルでも行政組織が縦割で、横の連携がないために現場対応に融通がきかないことにある。現場における問題の認識と解決のために必要な対策を取るためには、各分野との調整のもとに指揮ができるマネージャーが必要である。

2,農業政策と予算の有効活用 

(1)農業技術としての鳥獣害対策
 ほ場整備、耕作放棄地対策、里山振興などの各種農業政策や林業の中に、鳥獣害対策を組み込むことで、人と予算が活用できるようになり、多大な効果が期待できる。農業改良指導員の仕事の中に鳥獣害対策を含めたように、各種農業技術の普及においても同様の施策を進める必要がある。

(2)予算の有効活用
 農業関係予算を被害対策のハード面だけではなく、ソフト事業に使えるようにするべきである。農業の多面的機能として、環境保全型農業や中山間地直接支払い等を共生型施策に使うことは都市住民の理解と賛同も得られやすい。その場合も、少ない予算で効果的な対策を進めるためには、何よりも現場対応に即した人材の育成と配置が不可欠である。

3,人材の育成と配置 

(1)人材の育成と配置
 残念ながら、地域の現場では、このような問題を的確に把握し、対処することのできる人材もノウハウも育っていない。さらに、中山間地における人口減少と高齢化という社会的要因があり、人材育成が困難となっている。新たな対策として、大学等の教育機関と提携して、机上の学問ではなく現場で使える人材を育成することが急務である。

(2)狩猟依存から、野生動物専門員制度への転換を
 狩猟者人口が減少し高齢化が進む理由の一つは、若い世代が狩猟に魅力を覚えず、後継者が育たないことにある。他方、若者は一般的に野生動物への関心が強く、大学の野生動物学講座等には高い人気がある。本年度から全国の動物学系の私立大学には野生動物の専門講座が設置されることになった。環境省のアクティブレンジャーにも求人が殺到している。野生動物の保護管理を担う専門員制度へと時代の要請が変化していることを認識し、今後は、このような方向へ資金を投入し人材育成を図っていくしか将来展望はないと考えられる。

(3)異分野との提携
 耕作放棄地が増加し、野生鳥獣が集落に接近しやすくなっている。この対策として家畜の放牧が有効であると言われる。また、訓練を受けた犬を放すことにより高い追い払い効果があることが証明されている。異なる分野との連携により新しい被害対策を作り出すことが可能となる。ただし家畜の放牧には、地主の許可や家畜の健康管理等の問題があり、犬の放し飼いには動物愛護法や狂犬病予防法等との連携も必要となる。いずれにおいても動物に関する専門的知識と経験を有する人材が必要である。

4,狩猟依存による被害対策への反省 

(1)狩猟依存が被害対策を怠らせてきた
 野生鳥獣による農作物被害については、狩猟者に頼めば駆除してくれるという発想が地域に根付いている。そのために、野生鳥獣の生態を知って有効に追い払う技術の開発や、農作物を自らの力でガードするという自助努力がなおざりにされてきた。現在、わなの規制緩和によって農家が自ら捕獲をするように進める政策がとられているが、過疎と高齢化の進む地域の人々には過重な負担となり、有効な対策とは言えない。

(2)狩猟は被害対策に直結しない
 従来、ともかく捕獲圧をかければ被害が軽減するという考えのもとに、やみくもな
駆除が実施されてきた。この行為が、地域によっては、種を絶滅に追いやり、あるいは被害が軽減するどころか、逆に被害地域を拡大させてしまった場合もある。狩猟を利用して被害対策を行うという行為が、実際にどれほど被害対策に貢献してきたのか否か、客観的な効果測定を行う必要がある。

(3)狩猟行為と被害対策の矛盾
 狩猟は、鳥獣を取るという楽しみのために行われる。野生鳥獣が多いほど狩猟の楽しみがあり、そのためにキジの放鳥が行われ、地域によってはイノブタを放獣したために甚大な農作物被害を引き起こしている。狩猟は捕獲というツールしかなく、総合的被害対策の一部分しか担えない。

(4)住民の安全と治安の悪化
 狩猟規制を緩和する政策は、人身事故の増大や治安の悪化を招く。社会的にも狩猟 に対するよりいっそうの反感を引き起こす可能性がある。

5,将来展望 

(1)中山間地の振興対策
 鳥獣害問題は、日本の農業・林業のあり方や、都市への人口集中、中山間地域の過疎化・高齢化といった社会問題と密接に関わっている。これらの問題を総合的に取り組む長期的方針として、「中山間地域社会再生推進法(仮称)」などを検討していく必要もあると考えられる。

(2)生物多様性の保全
 日本は生物多様性条約を批准し、2010年の締約国会議の招致を閣議決定している。先進国の多くでは野生鳥獣を絶滅させてきた歴史があり、日本における生物多様性の保全と野生鳥獣との共存政策は、国際的にも注目を受ける時期にある。