自民党「有害鳥獣対策検討チーム」のヒアリングにおける提言(2007年4月18日)
2007年6月27日
自民党「有害鳥獣対策検討チーム」取りまとめ案について
野生生物保護法制定をめざす全国ネットワークの提言
1.農水省の対策について
■現在の鳥獣害の発生の背景
一つは、従来の狩猟圧(ハンター60万人時代:昭和45年)と森林の伐採・人工林化により野生鳥獣が減少した状態に慣れてしまったこと。もう一つは、中山間地域の農林業政策において、野生鳥獣の存在に配慮や対策がなされてこなかったことがあげられる。
■ 対策の遅れ
農水省の鳥獣害対策は、3年前までは「植物防疫課」の中にあり担当者は1名しかいなかった(現在は環境保全型農業対策室に移管)。大学の農学部では、鳥獣害対策に関する講座もカリキュラムもなく、教える先生もいないという状態が続いている。
■ 農水省の施策は始まったばかり
2004年に初めて農水副大臣の直命で農水省に、鳥獣害対策検討会が設置され被害対策の技術開発への取り組みが始まった。また、専門家の育成をはかることが指示された。(報告書名『鳥獣による農林水産業被害対策に関する検討会報告書』平成17年8月18日)
農業改良普及員制度の改革により普及員の業務に鳥獣害対策を含むようになった。ようやく今年から、普及専門員の国家試験で、鳥獣害対策が試験問題に入ることになった(ただし、病害虫からクマまでをカバーしなければならない)。
農水の鳥獣害対策(研究・技術開発等)は近年始まったばかりで、まだその有効性や検証がなされていない。さらにこれを推進する必要がある。(報告書『農山村の現状を踏まえた鳥獣被害対策の一体的実施のための検討調査報告書』平成16年度社会資本整備事業調整費、平成16年3月農水省生産局 110頁)
■ 施策の有効性
被害防除対策の予算の9割は、フェンスなどに使用されている。しかし、フェンスの有効性の検証やメンテナンスの実施状況などが調査されていないため、設置の有効性も検証されていない。
費用と労力を無駄にしないためには、「適地適木」ならぬ「適地適柵」の技術開発が必要である。
■総合的施策の必要性
農業の衰退、中山間地の人口の減少、高齢化という現状が当分続くことをふまえて、施策を展開する必要性がある。
山村振興法を改正して、鳥獣害も含めて中山間地域が抱える問題を総合的に取り組む「基本的な事業計画制度」を設ける必要がある。
2.環境省の対策について
■ 市町村の疲弊
地方分権一括法により、鳥獣の捕獲権限が市町村に委譲したが、過疎化・高齢化の進む市町村ではかえって負担が増加して、対処困難な状態となっている。
■ 効果のない捕獲
シカ、イノシシ、サルの捕獲数は急増しているが被害は減少しない。被害対策として、鳥獣保護法には捕獲のツールしかないことに限界がある。鳥獣の生態や行動を知らずして、やみくみに駆除をしても効果がないばかりか、逆効果になる可能性がある。
■ 特定鳥獣保護管理制度
総合的保護管理制度として特定鳥獣保護管理計画制度が設けられたことは評価に値する。特定計画制度では、被害対策、個体数管理、生息地管理の3本柱で計画を立てることが原則である。そのためにはまず鳥獣の生息調査をしなければならないが、そのための予算も人材もない県が多数ある。
■ハンター依存の失敗
自治体の野生鳥獣対策の財源は狩猟税(目的税)に依存しているが、ハンターの減少で税収も減少している。
野生生物保護管理専門員制度を設けず、ハンター依存の施策を続けてきたことの失敗が顕著となっている。
趣味のスポーツハンターでは、鳥獣害対策は担えない。猟友会依存ではなく、公的な捕獲の担い手(ガバメントハンター)が必要。
■専門員の育成と配置
環境省にも地方自治体にも野生生物の専門家がいない。資金のない環境省ができることは、長期的展望の下に人材を育成することしかない。
■次世代の育成
ハンターになりたい若者はほとんどいないが、野生生物保護管理専門職が設けられれば若者は殺到する。(今年度、新潟県のトキ保護センターの求人に学生が殺到。環境省のアクティブレンジャーも同様)
■人材に投資を
都道府県に鳥獣対策の専門家を最低でも1名をおき、市町村には現場で住民に技術指導できる技術者が最低1名いれば、問題の多くは解決できる。
3.鳥獣害対策のポイント
■多様性のある取り組み
・ 鳥獣害の発生の形態は、多様である。
・ 地域の自然環境、地形、生息条件、鳥獣の種類、種の組み合わせ、地域社会の現状などなど。
・ 一つの場所で効果があった方法が、全国どこでも通用するわけではない。画一的な方法では通用しない。発生状況に応じた多様な取組みが必要である。
■ 効果のない防除対策は、費用と労力の無駄使い
・フェンスの設置に多額の費用が投入されているが、その効果測定や事業評価がほとんどなされていない。
・ モデル事業を真似するより、それぞれの地域の現場対応が重要。
■「処方箋」を書ける「獣害医」を
・ 獣害という症状が出ているが、それを直す手助けをする医者がいないのが現状。
・ 「処方箋」を書ける人間、「獣害医」の必要性。樹木医がいるように、獣害医を設けるなど。
■正しい情報の提供
・ まずは野生鳥獣に対する正しい理解。そのために、地域での講習会など情報の共有。
・ とりわけ人口の減少、高齢化している中山間地では、地域で獣害対策講習会を開くことが有効。(その内容は、野生鳥獣の生態、防除方法、および種と地域特性に応じた個別対応)
■ マネージャーの必要性
・講師及びマネージャー(世話役)の育成と配置が必要。マネージャーには、鳥獣に対する知識+コミュニケーション能力・取りまとめ能力を養成。
・ 地域の活力作りために、住民、ボランティア、行政職員が共同して鳥獣害を防ぐ施策を展開。
・ 外部の駆除隊(自衛隊も含め)に依存することは、長い目で見た場合、地域の活力を失わせる。
■合意形成
・ 野生鳥獣は、国民の共有財産であり、その保護管理のためには、国が必要な資金を拠出すること、そして広く国民的合意のもとに対策が取られるべき。
|